相続不動産の評価方法の解説

一物四価

土地の価格は「一物四価」と言われるように、次の複数の価格がある。

実勢価格

実際の売買取引時の価格であり、次の2つの意味で使われている。

  • 売買が成立した土地に対する成約価格のこと
  • 売買が成立していない土地に対し、類似した土地の過去の成約価格等から査定する相場価格のこと
公示価格※1

国土交通省が毎年3月に公表するその年の1月1日時点に於ける全国の標準地の㎡単価であり、次の役割がある。

  • 一般の土地の取引価格に対する指標の提供
  • 公共用地の取得価格の算定の規準
  • 相続税評価、固定資産税評価の規準

参考までに、公示価格の補完的な役割のある「基準地価」もある。

これは、都道府県が毎年9月に公表するその年の7月1日時点に於ける全国の基準地の㎡単価である。この土地の価格も存在するので「一物五価」と言うこともある。

相続税路線価(相続税評価額)

国税庁が毎年7月に公表するその年の1月1日時点に於ける道路(路線)に面する土地の㎡単価が「相続税路線価」であり、これをベースにして算出した1画地の宅地の評価額が「相続税評価額」である。

相続税、贈与税の計算の時に適用される価格であり、 相続税路線価は公示価格の80%程度である。

固定資産税路線価(固定資産税評価額)

市区町村が3年毎の4月に公表するその年の1月1日時点に於ける道路(路線)に面する土地の㎡単価が「固定資産税路線価」であり、これをベースにして算出した1筆の土地の評価額が「固定資産税評価額」である。

固定資産税、不動産取得税等の計算の時に適用される価格であり、固定資産税路線価は公示価格の70%程度である。

なお、一般的に「路線価」と言えば「相続税路線価」を指し、本解説上の「路線価」も「相続税路線価」を指している。ただ経験上、市区町村の税務課職員が「路線価」と発言すれば「固定資産税路線価」を指している。

土地(地目別)の評価方法

相続税に於ける土地の評価方法は地目毎に定まり、また地目は登記簿上の地目でなく、相続開始日の現況によって判定される。

主な地目に於ける不動産評価方法は次のとおりである。

宅地

対象宅地に路線価が設定されているか否かで、評価方法が異なる。

路線価が設定されている場合

「路線価方式」となる。つまり、路線価に基づいて、次の計算式で評価額を求める。

評価額
路線価を調整率
補正した㎡単価
×
土地面積
路線価が設定されていない場合

「倍率方式」となる。つまり、固定資産税評価額に基づいて、次の計算式で評価額を求める。

評価額
固定資産税
評価額
×
倍率

なお、宅地(建物が建っている土地)に於いて賃貸借が絡んでくると評価額を減額できるので、「賃貸不動産の評価方法」を参照されたし。

参考までに、路線価方式は宅地に面する道路によって地価の金額の差が大きい市街地の評価に適し、一方倍率方式は比較的に差が小さい郊外宅地や農村宅地等に適している。従って、原則として路線価方式は市街地を形成する地域の宅地の評価に使用し、倍率方式はその他地域の宅地の評価に使用している。

また、路線価は主要な市街地の道路にしか設定されていないため、路線価のない宅地を評価するときは、代替方法として固定資産税評価額を使っているが、この固定資産税評価額は路線価より低く、そのままの価格で評価すると適切でないので、倍率を乗じて調整している。

上記計算式の各項目の情報入手先等は次のとおりである。

この判断は、国税庁の「路線価図・評価倍率表」サイトの該当市町村の「評価倍率表」へ行き、査定対象の宅地の地域が、「路線」と記載されているか否かで判断する。つまり「路線」と記載されていれば、路線価が設定されていることになり「路線価方式」を採用し、数値が記載されていれば、路線価が設定されていないことになり「倍率方式」を採用する。なお、この数値が「倍率方式」で使用する倍率値となる。

路線価

路線価は、国税庁の「路線価図・評価倍率表」サイトの該当都道府県の「路線価図」へ行き、査定対象の土地に接する道路に記載された数値が、㎡当たりの路線価(千円単位)である。

調整率

調整率に関しては、後述の「 親階層(青色)の4番目リスト 路線価の調整」を参照されたし。

土地面積

毎年5月に市町村役場から郵送される「固定資産税 納税通知書及び課税説明書」に記載されている「現況地積」の値が土地面積(㎡)である。

もし、紛失していれば有償になるが、市町村役場や法務局から入手可能である。市町村役場であれば、「名寄帳」(私が住んでるところでは、その市町村内で所有する全不動産に対し300円)に、法務局であれば「登記事項要約書(登記簿抄本:1不動産当たり450円)や「登記事項証明書」(登記簿謄本:1不動産当たり600円)に記載されており、情報入手だけであれば市町村役場の方が安く、所有物件が多いと馬鹿にできない価格差になる。

なお、概算の実測値を知りたければ、「便利ツール」ページの「土地の面積」を利用されたし。

固定資産税評価額

これも、毎年5月に市町村役場から郵送される「固定資産税 納税通知書及び課税説明書」に記載されている「評価額」の値が固定資産税評価額である。

もし、紛失していれば有償になるが市町村役場の「名寄帳」で、情報を入手できる。

倍率

上記「路線価の設定有無の判断」の解説を参照されたし。

農地(田又は畑)

地目は現況で判断されるので、例えば登記簿上の地目が農地(田又は畑)であっても、長年放置していたため雑草等が生育し容易に農地に復元できない状況の場合、原野又は雑種地と判定される。しかし、放置された状態であっても、客観的に見てその現状が耕作の目的と認められる土地(現在は耕作されていなくても耕作しようとすればいつでも耕作できるような休耕地や不耕作地も含む)であれば、農地と判定される。

現況農地の評価方法は、農地が存在する環境により次の3種類に分かれる。

市街地農地の場合

「宅地比準方式」となる。つまり、対象農地が宅地であるとした場合の評価から、その農地を宅地に転用するための造成費を引いた金額が評価額になる。

評価額
=(
宅地とした場合の
1㎡当たりの価格
1㎡当たり
の造成費
)×
土地面積
市街地周辺農地の場合

対象農地が市街地農地とした場合の評価の80%が評価額となる。

評価額
=(
宅地とした場合の
1㎡当たりの価格
1㎡当たり
の造成費
)×
土地面積
×
80%
上記以外の農地の場合

「倍率方式」となる。つまり、固定資産税評価額に基づいて、次の計算式で評価額を求める。

評価額
固定資産税
評価額
×
倍率

なお、対象農地がどの評価方法を適用すれば良いかの具体的な判断は、国税庁の「路線価図・評価倍率表」サイトの該当市町村の「評価倍率表」へ飛び、査定対象の田または畑の地域が、「市 比準」と記載されてば「市街地農地」となり、「周 比準」と記載されてば「市街地周辺農地」となり、数値で記載されていれば、それら以外の農地(倍率方式)となる。また、この数値が「倍率方式」で使用する倍率値となる。

雑種地

対象雑種地の現況等により評価するので一概には言えないが、例えば青空駐車場や資材置場の場合は、宅地あるいは宅地比準方式で評価するようである(個々の土地の評価方法に関しては、税務署に確認されたし)。

建物の評価方法

相続税に於ける建物の評価は土地と違い単純で、固定資産税評価額が相続建物の評価額となる。

評価額
固定資産税
評価額

なお、賃貸借が絡んでくると評価額を減額できるので、「土地・建物を所有し、建物を貸している場合」を参照されたし。

賃貸不動産の評価方法

土地上に建物が建っていて、かつ賃貸借が絡んでくると、次のように評価額を減額できる。なお、建物が存在しない土地を建築不可の資材置場等の用途として貸している場合は、建物が存在しない賃貸借なので、評価額を減額できない。

土地・建物を所有し、建物を貸している場合

土地(貸家建付地

自用地としての宅地評価額から、その自用地としての価額に「借地権割合×借家権割合」の値を掛けた額を引いた金額が土地の価額額となる。これを「自用地評価額」でくくり出すと次の計算式となる。

貸家建付地
評価額
自用地
評価額
×(1-
借地権
割合
×
貸家権
割合
貸家

貸家の評価額は、固定資産税評価額から、その家屋の借家権割合分を控除した金額が貸家の評価額になる。

なお、借家権割合は私が住んでいる石川県では30%であり、他の都道府県も同様の30%と思っているが、都道府県毎に定まっているので石川県以外については管轄の税務署に確認されたし。また、家屋を借りている人には借家権があるが、借家権の価額は、その権利が権利金等の名称をもって取引される慣行がある地域でない限り評価しない。

貸家
評価額
固定資産税
評価額
×(1-
借家権
割合

土地を貸し、土地を借りている人が建物を所有している場合(土地と建物の所有者が別)

自用地としての評価額に借地権割合を乗じた金額が、借地権の評価額となる。

借地権
評価額
自用地
評価額
×
借地権
割合
貸宅地

自用地としての評価額から借地権の評価額を引いた金額が、貸宅地の評価額となる。

貸宅地
評価額
自用地
評価額
×(1-
借地権
割合

小規模宅地等の特例の概要

被相続人が居住又は事業に利用していた土地は、相続人にとっても生活基盤を支える重要な土地であり、通常の相続税を掛けてしまうと生活が脅かされ、場合によっては納付資金を捻出するために土地を売却せざるえいない事態も発生しかねない。そのため、このような重要な土地に対し評価額(課税価格)を大幅に減額できる「小規模宅地等の特例」が設けられている。

この特例の概要は、被相続人が所有していた宅地の評価額を減額するものである。減額できる宅地の限度面積と減額割合が利用区分(宅地の用途で分類される区分)毎に定まっていて、正確性に欠けるものの下表のとおりである。

宅地の利用区分 限度面積 減額割合
自宅用 330㎡ 80%
事業用(貸付を除く) 400㎡ 80%
貸付用 200㎡ 50%

なお、「小規模宅地等の特例」の適用を受けるには、申告書の提出が要件となる。従って、特例により課税価格の合計額が基礎控除額内に収まったとしても、相続税を納付する必要がないものの申告書の提出が必要となる。

本特例の詳細について知りたい方は、次のボタンから閲覧されたし。

特例詳細解説

(長期の)配偶者居住権評価の概要

配偶者が無償で居住が認められる居住権には、短期の「配偶者短期居住権」と長期の「配偶者居住権」がある。

後者の居住権は、配偶者が長期占有することから財産的価値がある。よって、配偶者がこの権利を取得することにより、その居住建物と敷地(土地)の所有権の評価額に影響を与えることになり、次の関係が発生する。

建物の
相続税評価額
配偶者居住権が
設定された建物
所有権の評価額
配偶者居住権
の評価額
土地の
相続税評価額
敷地利用権が
付いている土地
所有権の評価額
配偶者居住権に
基づく建物の
敷地利用権の評価額

上記関係式の右辺に示されている各評価額の具体的な求め方については、次のボタンから閲覧されたし。

評価詳細解説

モデルケースによる不動産評価手順

次のモデルケースを使って、相続不動産の評価額算出手順を解説する。

モデルケース

モデルケースの概略図(路線価図)

上図モデルケースの補足説明は、次のとおり。

記号 借地権
割合
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
  • 路線価が設定されている2つの道路に面した角地の物件である。なお、両道路の幅は4m以上である。
  • 敷地に面した道路には、路線価(e.g. 「30E」)が設定されてる。
  • 道路上に明記された数値(e.g. 「30E」の「30」)は、㎡当たりの路線価(千円単位)を表している。
  • 道路上に明記された数値直後のアルファベット記号(e.g. 「30E」の「E」)は、借地権割合を示している。記号と借地権割合の関係は右表のとおり。
  • 道路上に明記された数値+アルファベット記号が、上図モデルケースのように何らかのマークで囲まれていなければ、「普通住宅地区」を示す。なお、「地区」に関しては後述「 親階層(青色)の2番目リスト 」を参照されたし。
  • 敷地面積は496㎡〔(7m+13m)×(14m+16m)ー13m×16m÷2〕で、敷地の形は不整形である。
  • 建物は貸家で、固定資産税評価額は500万円である。
  • 敷地は貸付事業用宅地等の対象であり、特例の適用を受ける面積は限度面積(200㎡)とする。
  • 敷地には崖地が存在しなく、また土砂災害特別警戒区域内となる部分もない。

評価手順の解説

不動産の評価作業は、建物は単純だが、土地は面倒である。しかし、面倒でも手順に従って作業すれば良いので難しくはない。以下に、土地と建物の評価手順を解説する。

土地の評価

  1. 評価方法の判断

    本来であれば「評価倍率表」を使って、査定対象の宅地の地域が「路線」と記載されているか否かで、「路線価方式」か「倍率方式」かを判断し、次に「路線価方式」であれば「路線価図」を使って、対象宅地の路線価を求めることになる。ただ、解説の便宜上、上図のモデルケースには既に路線価を設定してあり、「路線価方式」を適用するものとする。

    親階層(青色)の下矢印
  2. 土地の利用状況等により価格への影響度が異なることから、土地の利用状況が概ね同一となる地区を設定されていて、次の7地区が存在する。「親階層(青色)の4番目リスト 」で述べている調整率は、地区毎に固有の調整率が存在するため、評価額を算出する上(調整率を調べる上)で対象物件がどの地区に該当するかを確認しておく必要がある。

    地区の確認方法は、路線価図に記載されている路線価の値を囲むマークで確認できる(路線価図上の地区のマークについては、コチラを参照されたし)。

    • ビル街地区
    • 高度商業地区
    • 繁華街地区
    • 普通商業・併用住宅地区
    • 普通住宅地区
    • 中小工場地区
    • 大工場地区

    なお、上図モデルケースの様に、何のマークにも囲まれていない場合は、「普通住宅地区」を示す。

    親階層(青色)の下矢印
  3. 路線価の確認

    道路上に明記された数値(e.g. 「30E」の「30」)は、㎡当たりの路線価(千円単位)を表している。従って、北側に面した道路は「30E]と明記されているので、路線価は30,000円/㎡となり、東側に面した道路は「25F]と明記されているので、路線価は25,000円/㎡となる。

    親階層(青色)の下矢印
  4. 土地の評価額は、単純に「路線価 × 面積」で算出できるのでなく、路線価に対しその土地に接している道路状況や土地の形状等に応じた調整を行った後に、面積を掛け評価額を算出することになる。調整率は次のものがあるので、適用すべき調整率があれば路線価を調整する必要がある。

    なお、各調整率の値に関しては、国税庁が提供する調整率表(平成31年1月分以降用:2023年1月時点で最新版)を参照されたし。また、各調整率表に於いて評価対象宅地が表の範囲外に当たる場合は調整率の値を「1」とみなせば良く、各調整率で求める評価額計算過程の㎡単価は少数点以下切捨てとなる。

    1. 想定整形地・間口・奥行の計算

      路線価の調整を行うための準備作業として、各道路(路線)に対し想定整形地の面積、間口距離及び奥行距離を求めておく必要がある。

      なお、想定整形地とは道路に接し敷地全体を最小面積で取り囲む長方形(または正方形)であり、間口距離とは原則道路と接する距離であり、奥行距離とは想定整形地の奥行距離を上限とした「敷地面積」÷「間口距離」である。

      モデルケースの場合は次のとおりとなる。

      北側道路側を間口とみた場合

      想定整形地はモデルケース図の敷地の欠けた部分を含めた長方形となり、その面積は

      想定整形地
      の間口
      20m
      ×
      想定整形地
      の奥行
      30m
      想定整形地
      の面積
      600㎡

      間口距離は、敷地が北側道路に接している距離の

      間口距離
      7m

      奥行距離は、次の計算結果が上限値(想定整形地の奥行)を超えているので、上限値の30mとなる。

      敷地面積
      496㎡
      ÷
      間口距離
      7m
      70.85m
      奥行距離
      30m
      東側道路側を間口とみた場合

      東側を間口とみた場合の想定整形地は、このモデルケースでは北側を間口とみた場合と同じ形になり、その面積は

      想定整形地
      の間口
      30m
      ×
      想定整形地
      の奥行
      20m
      想定整形地
      の面積
      600㎡

      間口距離は、敷地が東側道路に接している距離の

      間口距離
      30m

      奥行距離は、次の計算結果が上限値(想定整形地の奥行)以内なので、計算結果の16.5mとなる。

      敷地面積
      496㎡
      ÷
      間口距離
      30m
      奥行距離
      16.5m
      上限値
      20m
      子階層(茶色)の下矢印
    2. 奥行価格補正率と正面路線判定

      奥行が極端に短い場合や長い場合は、利便性が低下するため評価額を下げる補正を行う。この時、使用する調整率が「奥行価格補正率」である。

      また、角地の場合、正面と側方の2つの道路(路線)に面しているから、まずどちらが評価する上で基準となる「正面路線」になるのか判定する必要があり、その判定方法は、敷地に面する各々の道路に対し「路線価 × 奥行価格補正率」の計算をして、金額の高い方の道路となる。

      つまり、モデルケースでは次のとおりとなる。

      北側道路側を間口とみた場合の奥行は30mなので、調整率表から普通住宅地区の調整率は「0.95」である。よって、

      路線価
      30,000円
      ×
      奥行価格
      補正率
      0.95
      調整後の㎡単価
      28,500円

      一方、東側道路側を間口とみた場合の奥行は16.5mなので、調整率表から普通住宅地区の調整率は「1.00」である。よって、

      路線価
      25,000円
      ×
      奥行価格
      補正率
      1.00
      調整後の㎡単価
      25,000円

      以上により、北側道路が東側道路より金額が高いので、北側道路が「正面路線」(奥行価格補正後の㎡単価は、28,500円)となり、東側道路が「側方路線」(奥行価格補正後の㎡単価は、25,000円)となる。

      子階層(茶色)の下矢印
    3. 側方路影響加算率

      正面と側方に道路(路線)がある角地の宅地は、側方路線の存在により利便性が向上するため評価額を上げる調整を行う。この時、使用する調整率が「側方路影響加算率」である。

      子階層(茶色)の2番目リスト 」で求めた正面路線の奥行価格補正後の㎡単価に対し、側方路線の奥行路線補正後の㎡単価に側方路影響加算率を掛けた値を加算する。

      つまり、モデルケースでは次のとおりとなる。

      調整率表から普通住宅地区に於ける「側方路影響加算率」は「0.03」となる。よって、

      奥行価格補正後
      の正面路線
      28,500円
      奥行路線補正後
      の側方路線
      25,000円
      ×
      側方路影響
      加算率
      0.03
      調整後の㎡単価
      29,250円
      子階層(茶色)の下矢印
    4. 二方路線影響加算率

      二方路(敷地が正面と裏面とで路線に接している状態)も2つの道路に接しているので、利便性が向上するため評価額を上げる調整を行う。この時、使用する調整率が「二方路線影響加算率」である。

      なお、モデルケースの場合は二方路でないので調整不要。

      子階層(茶色)の下矢印
    5. 間口の長さに比べ奥行の長さが長すぎると利便性が低下するため、「奥行が長大な宅地」の場合は評価額を下げる調整を行う。この時、使用する調整率が「奥行価格補正率」である。

      また、奥行長大補正率は単独で利用されることはなく、「子階層(茶色)の6番目リスト 」の「間口が狭小な宅地」で利用される。

      なお、普通住宅地区に於ける「奥行が長大な宅地」とは、「奥行きの長さ」÷「間口の長さ」が2以上を指し、モデルケースの場合は4.2(30m÷7m)なので「奥行が長大な宅地」に該当し、調整率表から普通住宅地区に於ける「奥行長大補正率」は「0.94」である。

      子階層(茶色)の下矢印
    6. 間口が狭いと利便性が低下するため、「間口が狭小な宅地」の場合は評価額を下げる調整を行う。この時、使用する調整率が「間口狭小補正率」である。

      なお、「奥行が長大な宅地」場合は、「調整率表の間口狭小補正率」×「奥行長大補正率」が適用する調整率となる。

      普通住宅地区に於ける「間口が狭小な宅地」とは、間口が8m未満を指し、モデルケースの場合は間口が7mなので「間口が狭小な宅地」に該当し、調整率表から普通住宅地区に於ける「間口狭小補正率」は「0.97」となる。

      従って、間口狭小宅地適用の㎡単価は、

      子階層(茶色)の4番目リスト まで調整
      した㎡単価
      29,250円
      ×(
      間口狭小
      補正率
      0.97
      ×
      奥行長大
      補正率
      0.94
      )=
      間口狭小宅地
      適用の㎡単価
      26,670円
      子階層(茶色)の下矢印
    7. 不整形地補正率

      土地の形が不整形であると利便性が低下するため、評価額を下げる調整を行う。この時、使用する調整率が「不整形地補正率」である。

      また、「間口が狭小な宅地」の場合は、「調整率表の不整形地補正率」×「間口狭小補正率」を「不整形地補正率」とする(但し、下限値は、「調整率表の不整形地補正率」の最小値である「0.6」となる)。

      なお、「調整率表の不整形地補正率」を求めるには、以下の手順となる。

      • 「かげ地割合」を次の計算式で求める。

        かげ地割合
        =(
        想定整形地
        の面積
        不整形地
        の面積
        )÷
        想定整形地
        の面積
        下矢印
      • 次に、調整率表の「地積区分表」から、敷地面積に該当する地積区分を確認する。
        下矢印
      • 最後に、求めた「かげ地割合」と「地積区分」を元に、調整率表の「不整形地補正率表」を使って不整形地補正率を求める。

      以上により、モデルケースの場合は次のとおりとなる。

      「かげ地割合」は、

      想定整形地
      面積
      600㎡
      敷地面積
      496㎡
      )÷
      想定整形地
      面積
      600㎡
      かげ地割合
      17.3%

      敷地面積496㎡の地積区分は「A」となり、「調整率表の不整形地補正率」は「0.96」となる。

      次に「間口が狭小な宅地」の「不整形地補正率」は、次の計算式となるが、計算結果が下限値以上なので、計算結果の「0.93」となる。

      調整率表
      不整形地
      補正率
      0.96
      ×
      間口狭小
      補正率
      0.97
      不整形地
      補正率
      0.93
      下限値
      0.6

      最後に、求めた「不整形地補正率」を使って路線価を調整することになるが、ここで注意しなければならないのは、「不整形地」と「 子階層(茶色)の6番目リスト 」の「間口狭小な宅地」の両方を適用することができなく、申告者が有利な方を選ぶことになる。よって、ここでは「 子階層(茶色)の6番目リスト 」まで調整した㎡単価を使って調整するのでなく、「 子階層(茶色)の4番目リスト 」まで調整した㎡単価を使って調整をし、その㎡単価と「 子階層(茶色)の6番目リスト 」まで調整した㎡単価と比べて、低い㎡単価を採用すれば良い。

      従って、まず不整形地適用の㎡単価を求め、

      子階層(茶色)の4番目リスト まで調整
      した㎡単価
      29,250円
      ×
      不整形地
      補正率
      0.93
      不整形地適用
      の㎡単価
      27,202円

      次に、間口狭小宅地適用と不整形地適用の㎡単価を比較し、低い単価の間口狭小宅地適用の㎡単価「26,670円」が、「 子階層(茶色)の7番目リスト 」まで調整した㎡単価となる。

      間口狭小宅地
      適用の㎡単価
      26,670円
      不整形地適用
      の㎡単価
      27,202円
      子階層(茶色)の下矢印
    8. 地積(面積)が広すぎると利便性が低下するため、「地積規模の大きな宅地」の場合は評価額を下げる調整を行う。この時、使用する調整率が「規模格差補正率」である。

      • 三大都市圏に於ける500㎡以上の宅地。

        なお、三大都市圏とは、次の地域を言う。

        • 首都圏整備法の既成市街地又は近郊整備地帯
        • 近畿圏整備法の既成都市区域又は近郊整備区域
        • 中部圏開発整備法の都市整備区域
      • 三大都市圏以外の地域に於ける1,000㎡以上の宅地。

      従って、モデルケースの地積は496㎡であり地積要件を満たさないので、地積規模の大きな宅地に該当しなく調整不要。

      詳細解説

      この「地積規模の大きな宅地」の評価は、2018年1月1日から適用される相続税改正で新設されたものなので、以下にもう少し詳細に解説しておく。なお、この新設に伴い、従来の「広大地」の評価は廃止となった。

      地積規模の大きな宅地とは

      「地積規模の大きな宅地」とは、上記で述べた地積要件を満たした宅地の全てが該当するのでなく、たとえ地積要件を満たしていても次のものは該当しない。

      • 市街化調整区域(都市計画法第34条第10号又は第11号に基づき宅地分譲の開発行為を行うことができる区域を除く。)の宅地
      • 用途地域が工業専用地域の宅地
      • 容積率が400%(東京都の特別区は300%)以上の宅地
      • 大規模工場用地(財産評価基本通達22-2)
      評価対象になる宅地

      地積規模の大きな宅地は路線価地域の宅地だけでなく倍率地域の宅地も評価できるが、両地域の対象範囲には違いがある。倍率地域の宅地は「地積規模大きな宅地」であれば評価対象になるが、路線価地域の宅地は「地積規模大きな宅地」であっても次の地区にある宅地しか評価対象にならない。

      • 普通商業・併用住宅地区
      • 普通住宅地区
      規模格差補正率の求め方

      調整率表の「規模格差補正率を算出する際の表」がら該当地積のⒷとⒸの値を次の計算式に代入して「規模格差補正率」を求める。

      規模格差
      補正率
      =(
      地積
      ×
      +
      )/
      地積
      ×
      0.8

      なお、倍率地域の宅地の場合は、地区区分が存在しないが普通住宅区分の該当地積のⒷとⒸの値を代入して「規模格差補正率」を求めれば良い。

      評価方法

      評価方法は、次のように路線価地域と倍率地域で異なる。

      路線価地域の宅地の場合

      地積規模の大きな宅地適用の㎡単価は、次の計算式で求める。

      子階層(茶色)の7番目リスト まで調整
      した㎡単価
      ×
      規模格差補正率
      規模格差適用
      の㎡単価
      倍率地域の宅地の場合

      倍率地域の宅地には路線価そのものがないので、「評価対象となる宅地が標準的な間口距離及び奥行距離を有する宅地であるとした場合の㎡単価」※2を調整率で補正する前の㎡単価とみなし、普通住宅地区の調整率を使って、路線価方式の本解説に従い、「子階層(茶色)の7番目リスト 」まで調整した㎡単価を求めた上で「規模格差補正率」を掛け、規模格差適用の㎡単価を求めれば良い。その後の手順も路線価方式の手順(「子階層(茶色)の9番目リスト 」以降の手順)に従い評価額を算出することになる。

      但し、地積規模大きな宅地であっても、本来の倍率方式で求めた評価額(「対象宅地の固定資産税評価額」×「倍率」)の方が低い額であれば、この倍率方式の評価額を採用すれば良い。

      子階層(茶色)の下矢印
    親階層(青色)の下矢印
  5. 自用地としての評価額

    親階層(青色)の4番目リスト 」で求めた自用地としての㎡単価に敷地面積を掛けて、自用地としての評価額を算出する。

    自用地㎡単価
    26,670円
    ×
    敷地面積
    496㎡
    自用地評価額
    13,228,320円
    親階層(青色)の下矢印
  6. セットバックを考慮した評価額

    建物の建築時にセットバックが必要な宅地に於いては、セットバックすべき部分について、通常どおりに評価した価額から70%相当額を控除して評価することになり、次の計算式となる。

    親階層(青色)の5番目リスト の自用地
    評価額
    -(
    親階層(青色)の5番目リスト の自用地
    評価額
    ×
    セットバック
    面積
    ÷
    敷地
    面積
    ×
    70%

    なお、上記「モデルケース」の補足説明により、両道路幅が共に4m以上なのでセットバックの調整不要。

    親階層(青色)の下矢印
  7. 貸家建付地としての評価額

    貸家として使用しているので、自用地としての評価額から借地権割合と借家権割合を使って、貸家建付地の評価額を算出する必要がある。

    借地権割合は、路線価図の路線上に明記された路線価(数値)直後のアルファベットで判断できるが、モデルケースでは、2つの道路(路線)に面し、各々のアルファベット(借地権割合)が異なる。この場合は、正面路線(北側道路)の借地権割合を適用すれば良い。従って、借地権割合は、「E」の50%となる。

    借家権割合は、私が住んでいる石川県の値を適用し30%とする(現時点、他の都道府県も30%となっていると思われる)。

    親階層(青色)の6番目リスト まで調整した
    自用地評価額
    13,228,320円
    ×(1-
    借地権
    割合
    50%
    ×
    借家権
    割合
    30%
    )=
    貸家建付地評価額
    11,244,072円
    親階層(青色)の下矢印
  8. 小規模宅地等の特例を適用した評価額

    本敷地は上記「モデルケース」の補足説明により、前提として貸付事業用宅地等の対象であり、かつ特例の適用を受ける面積は限度面積の200㎡である。また、減額割合は50%となる。

    従って、小規模宅地等に該当する部分の価額は、

    親階層(青色)の7番目リスト の貸家建付地評価額
    11,244,072円
    ×
    小規模宅地
    等の面積
    200㎡
    ÷
    敷地面積
    496㎡
    小規模宅地等の価額
    4,533,900円

    次に、小規模宅地等の特例により減額される金額は、

    小規模宅地等の価額
    4,533,900円
    ×
    減額割合
    50%
    減額金額
    2,266,950円

    以上により、小規模宅地等の特例を適用した評価額(課税価格に算入する価額)は、

    親階層(青色)の7番目リスト の貸家建付地評価額
    11,244,072円
    減額金額
    2,266,950円
    特例適用後の評価額
    8,977,122円

建物の評価

建物は固定資産税評価額が評価額となるが、貸家として利用しているので借家権割合により貸家の評価額(課税価格に算入する価額)は、

固定資産評価額
5,000,000円
×(1-
借家権割合
30%
)=
貸家評価額
3,500,000円

節税対策と効果

最後に、これまでの不動産の評価方法の解説から見えてくる相続税の節税対策と効果について考察する。

新築住宅を購入し、貸家にした場合について

節税対策として良く耳にするのが、不動産を購入し賃貸経営する話である。この時の節税効果を見てみる。

土地の節税効果

土地の節税効果として、次の購入と貸家によるものがある。

購入による減額

一般論で言うと路線価は実勢価格より低いと言われ、また公示価格と実勢価格の関係は地域等によりまちまちであり一概に言えないものの、仮に購入した土地の単価が公示価格と同じであったとする。そうすると、路線価は公示価格の80%程度なので、現金から土地に替えることにより20%減額された評価額になる。

貸家による減額

更に、貸家にすることにより次の節税効果がある。

貸家建付地

私の住んでいる石川県小松市では、借地権割合の殆どが「E」の50%で、脇道に入ると「F」の40%が多少ある程度であり、また借家権割合は30%なので、大部分のケースは15%(50%×30%)減額された評価額になる。

参考までに、都市部の住宅地に於いて私の簡易的調査結果によると、目安として名古屋は15%、大阪は18%、東京は18or21%の減額になるケースが多い(平成28年時点)。

貸付事業用宅地等

小規模宅地等の特例に於ける貸付事業用宅地等の適用を受けると土地の200㎡までは50%減額された評価額になる。

以上により、敷地が200㎡以下で敷地全体を貸付事業用宅地等の適用を受けるとすると、課税価格に算入する価額は実勢価格の34%(80%×85%×50%)となる。

建物の節税効果

建物の節税効果として、次の購入と貸家によるものがある。

購入による減額

新築の場合、固定資産税評価額は実勢価格より低く、木造住宅の場合は実勢価格の40%程度が固定資産税評価額と判断していて60%の減額になる。その判断根拠は次のとおり。

私は石川県小松市周辺のことしか分からないが、税務課が求める新築時の固定資産税評価額は、木造住宅建築費として坪単価30万円をベースにし、それに補正率(全国共通の80%×地域毎に異なる85%=68%)を掛けて算出している。一方、平成28年度に於ける不動産流通推進センター発表の石川県の木造住宅建築費坪単価は、500,826円である。従って、実勢価格の40%(30万円×68%÷約50万円)と判断できる。

なお、この40%の評価は新築時しか当てはまらない。中古住宅の平均的な評価として捕えた場合、根拠は割愛するが、年数が経つにつれて価格差割合は縮小していき耐用年数を経過した頃には、ほぼ同じ評価額になると判断している。よって、中古住宅を購入した場合は、60%も減額されないとみるべきである。

貸家による減額

更に、貸家にすることにより、借家権割合により30%減額された評価額になる。

以上により、課税価格に算入する価額は実勢価格の28%(40%×70%)となる。

包括的な検討

上記の節税効果は、更に借入れをして購入していれば、相続時の借入残高はマイナス財産として課税価格に反映でき、節税効果がある。

ただ、このような節税効果としてのメリットを見ると、現金から(更に借入れまでして)不動産に替え賃貸経営をすることは、相続対策として非常に有効な手段と思うかもしれないが、一方で不動産に替えることによる次のデメリットもあるので、各自の状況から包括的に検討すべきである。

即換金が困難

買い手が見つかるまで、相当な期間を要す。状況によっては、何年経っても買い手が見つからなく、換金できないことも有り得る。

相続時、分割が困難

分割を諦め相続人の一人が取得するか、共有を覚悟しておいた方が良い。

利子の発生(借入れ時)

借入れをして不動産購入していれば、利子を支払い続けなければならない。

資産価値が年々下落

地価はこれまでのところ長年下落傾向であり、建物も古くなって行くので価値も年々下落していく。

なお、上記解説で新築すれば60%減額に伴う節税効果があると述べたが、これは新築時にタイミング良く相続が発生すればの話である。幸運にも(あるいは「不幸」にも)、新築建物の所有者が生き続ければ、その建物の価値が下落し続け、つまり所有者の資産価値が下落し続けることになる。

賃貸の空きリスク

国内の人口は減少している状況の中、平成27年の相続税改正の適用により相続税の納付の可能性が高まり、相続税対策として建物を建て賃貸経営に乗り出す人が増えた結果、供給過剰による空きが増えている。

以上を踏まえると、不動産の購入までして賃貸経営に乗り出すか否かは、相続対策よりは収益性に重点を置くべきである。

小規模宅地等の特例について

配偶者には「配偶者の税額軽減」があるため、配偶者以外の相続人が相続税の納付が必要でも、配偶者は納付不要のケースが多い。従って、このようなケースでは、小規模宅地等の特例の対象となる土地は、特例の適用を受けなくても相続税納付不要な配偶者より、相続税の納付が必要な相続人が取得した方が、その人の課税価額を減額できた分、その人の相続税に反映されて行くので節税効果が大きい。

そうは言っても、世の中には色んなケースがあり、上記のような状況でも敢えて小規模宅地等の特例の対象となる土地を納付不要な配偶者が取得することも十分有り得る。この場合配偶者の立場から見ると、小規模宅地等の特例の適用を受けなくても納付不要なので、わざわざ小規模宅地等の特例の適用を受けるための申請手続きを行う必要がないように思う。しかし、他の納付必要な相続人のことを考えれば、配偶者は申請手続きを行うべきである。なぜなら、配偶者が小規模宅地等の特例の適用を受けることにより、次の流れの結果、配偶者以外の節税効果があるからである。

  • 配偶者の課税価格が減額

    下矢印
  • 課税価格の合計額(全相続人の課税価格の合計額)が減額

    下矢印
  • 相続税の総額(全相続人の相続税の合計額)が下がる

    下矢印
  • 納付必要な相続人の相続税額が下がる

また、上記のケース(配偶者は納付不要、その他相続人は納付必要)で、納付が必要な相続人は子供2人(息子と娘)だとする。小規模宅地等の特例の対象となる土地を配偶者又は息子のどちらかが取得する場合、娘にとって、どちらが取得した方が節税効果が大きいだろうか?

この場合、配偶者が取得するより息子が取得した方が、全相続人の(税額控除後の)納付税額の合計額は小さくなるものの、娘の納付税額は、どちらが取得しようと節税効果の大きさは変わらない。なぜなら、どちらが取得しようと取得した相続人の課税価格の減額金額は同じなので、課税価格の合計額も同じになり、(税額控除前の)相続税の総額も同じだからである。

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written on Apr.16,2015