配偶者保護
昨今の高齢化社会に伴い、配偶者の一方が死亡した時は残された配偶者も高齢である可能性が高いので、その生活を保障できる仕組みの必要性が高まっていることから、配偶者を保護する改正が行われた。今回の改正では、配偶者へ贈与・遺贈した居住用不動産の扱いが変更になり、また配偶者の居住権が新設された。具体的な改正内容は次のとおりである。
なお、一見すると配偶者に優しくなった分、子供には厳しくなったようにも捉えることができるが、通常であれば配偶者が先に亡くなり子供が2次相続を受けることになるので、子供に厳しくなったのでなく、生きている間の配偶者を保護する意味合いが強いと捉える方が適切と考える。
配偶者へ贈与・遺贈した居住用不動産(2019年7月1日施行)
結論から言うと、今回の改正で婚姻期間20年以上の夫婦間で贈与・遺贈した居住用不動産は、遺産分割の対象外となった。
遺産分割の対象外になる理由は、「被相続人が居住用不動産に対し特別受益の持戻しを免除する旨の意思を表示したと推定」することになったからである。この理由が何を言っているのか理解できない方は、改正前の既存制度自体を把握していないと思われるので、まず予備知識として既存制度を解説してから、本題の改正内容を解説する。
なお、今回の改正で既存制度に変更があった訳でなく、新しい規定が追加されただけなので、今後も既存制度を把握しておく必要がある。
既存制度
本来、贈与された財産は相続財産から外れ、遺産分割の対象外になる筈である。ところが共同相続人の誰かが贈与・遺贈を受けると、他の相続人との間で不公平な状況が発生し、特別受益※1に当たる可能性がある。特別受益に当たれば何十年前の贈与であっても遺産分割の対象となる。これを「特別受益の持戻し」と言う。
この例外として、特別受益であっても遺産分割の対象にしない「持戻し免除」の方法がある。それは、被相続人が生前贈与・遺贈する財産に対し「特別受益の持戻しを免除する旨の意思表示」をすることである。
生前贈与に於ける意思表示は、明示の意思表示だけでなく、黙示の意思表示でも認められている。しかし、黙示の意思表示だと意思表示があったか否かは総合的に判断するしかなく、トラブルの原因になりかねない。また、遺贈に於ける意思表示では遺言上で明示の意思表示をしていれば問題ないが、黙示の意思表示が認められなかった判決もある。
以上を踏まえれば、被相続人は相続人同士でトラブルにならないように明示の意思表示をすべきである。
参考までに、生前贈与を受けた財産を遺産分割の対象になるか否かで、相続時に譲り受ける財産は次のような違いが発生する。
- 前提条件
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- 被相続人の法定相続人は長男と長女の2人である。
- 長男は生前贈与で1,000万円を受け取っている。
- 被相続人の遺産は、現金2,000万円である。
- 法定相続分で遺産分割する。
- 遺産分割の対象でないケース(持戻無)
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遺産2,000万円のみが相続財産であり、同順位の長男と長女で均等割りになる。
- 長男:1,000万円(生前贈与1,000万円を含めれば、実質被相続人から総額2,000万円を譲り受けていることになる。)
- 長女:1,000万円
- 遺産分割の対象であるケース(持戻有)
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遺産2,000万円と生前贈与1,000万円の総額3,000万円が相続財産とみなし、同順位の長男と長女で均等割りになる。
- 長男:1,500万円(この内、1,000万円は生前贈与されているので、実質は差額の500万円を相続時に譲り受けることになる。)
- 長女:1,500万円
なお、ここで述べている「遺産分割の対象になるか否か」の意味するところは、あくまで相続人との間で遺産を分ける協議をする時に、贈与・遺贈された財産も相続財産とみなして協議すべきか否かと言うことであり、相続税を算出する時に相続財産に算入すべきか否かを意味している訳でない。相続法(民法)と相続税法の規定を混同してはいけない。
相続人が生前贈与された財産を相続財産に算入して相続税を計算すべきか否かは、民法の特別受益か否かとか、持戻しを免除の意思表示があるか否かを元に判断するのでなく、次のとおりとなる。
- 贈与を受けた時に暦年課税を選択していれば相続開始前3年以内の贈与に限り相続財産に算入する必要があり、3年を超えていれば相続財産に算入する必要がない。
- 贈与を受けた時に相続時精算課税を選択していれば、この制度を選択した以降の全ての贈与に限り、相続開始の何年前であろうと相続財産に算入する必要がある。
改正内容
上記の既存制度を踏まえ今回の改正内容を解説する。
改正前の状態だと、被相続人が配偶者に贈与・遺贈した居住用不動産は、特別受益に当たってしまうため、被相続人が居住用不動産に対し特別受益の持戻しを免除する旨の意思表示をしていなければ、遺産分割の対象になってしまう。そうなると、配偶者と他の相続人との関係が悪いと、配偶者が次のような厳しい状況に置かれかねない。
- 居住用不動産を贈与されている配偶者はそのまま住み続けることができるが、遺産分割の対象になってしまうと高額な居住用不動産を相続した扱いになるので、今後の生活費に当てる預貯金を相続できなくなる可能性が高くなり、老後生活に支障をきたす。
- 主な財産が居住用不動産しかない場合、他の相続人が不動産の共有を拒めば居住用不動産を売却現金化し相続財産を分けるしかなく、住み慣れた居住用不動産に住めなくなる。
そこで今回の改正で、婚姻期間20年以上の夫婦間であれば「被相続人が居住用不動産に対し特別受益の持戻しを免除する旨の意思を表示したと推定」することになり、明示的に意思表示されていなくても、遺産分割の対象にしなくて良くなった。これにより、生前贈与か遺贈により配偶者へ居住用不動産を譲っておけば、配偶者は居住用不動産を手放す事態が発生することがなくなり、また生活費に当てる預貯金も確保し易くなった。
なお、この追加された規定は「みなし規定」でなく「推定規定」であることも押えておく必要がある。つまり、持戻しを免除の意思表示があったと『推定』しているだけなので、他の相続人等が被相続人の持戻す意思表示があったことを立証すれば、原則に戻り遺産分割の対象となる。
配偶者の居住権(2020年4月1日施行)
これまでは被相続人が所有していた建物に居住していた配偶者が、法的に問題にされることなしに居住し続けるには相続や贈与で居住建物を取得するしかなかった。今回の改正で新設された配偶者の居住権により、居住建物を取得しなくても配偶者が無償で居住し続けられる権利が認められるようになった。なお、この権利はあくまで配偶者が居住するためのものであるから、取得した配偶者はこの権利を譲渡することができない。
この居住権には、短期の居住を認める「配偶者短期居住権」と長期の居住を認める「配偶者居住権」の2種類があり、その内容は次のとおり。
配偶者短期居住権
配偶者短期居住権は、配偶者が無償で居住している建物を相続又は遺贈等により取得した所有者に対し、配偶者が最低6ヶ月間は住み続けることができる権利である。
存続期間をもう少し詳しく述べると次のとおり。
- 遺産分割の場合は、居住建物の所有者が決定した日、または相続開始の日から6ヶ月経過した日のいずれか遅い日まで
- 第三者への遺贈など上記以外の場合は、居住建物の取得者による配偶者短期居住権の消滅の申入れができ、この申入れの日から6ヶ月を経過する日まで
但し、登記制度がなく第三者に対抗できない。つまり、居住建物を相続した所有者が第三者に売却した場合は、6ヶ月未満であっても、配偶者は住み続けることができなくなる。
この権利を取得すための特別な手続きは不要であるが、相続開始時に於いて配偶者が居住建物に無償で居住していた必要がある。また、配偶者短期居住権は相続税課税価格の対象にならない。
なお、配偶者短期居住権を取得した配偶者は居住建物取得者の承諾を取れれば第三者に使用させることができるが、次で述べる長期の「配偶者居住権」と異なり、収益する権利は認められていない。
(長期の)配偶者居住権
この配偶者居住権は、基本的には配偶者が亡くなるまで居住建物に住み続けられる権利である。この権利を取得すためには、上記の短期と同様で相続開始時に於いて配偶者が居住建物に無償で居住していた必要があるが、この要件だけでは自動的に取得できない。遺産分割あるいは遺贈で取得する必要がある。あるいは、配偶者が家庭裁判所に配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出、審判により認められる可能性もある。
この権利の存続期間は、原則配偶者が亡くなるまでであるが、遺産分割協議、遺言または家庭裁判所の審判に於いて期間を制限させることができる。
配偶者居住権を取得した配偶者は、居住建物取得者の承諾を取れれば第三者に使用・収益させることができるが、配偶者居住権を譲渡することができない。このことから、例えば配偶者が老人ホームに入居し空き家になった場合は、次のような対処方法が考えられる。
- 第三者に売却
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空き家になっても配偶者居住権は残っているので、売却しようとしても購入者を見つけ難い。そこで、配偶者に配偶者居住権を放棄してもらう代わりに、居住建物を相続した所有者が対価を払うことで合意し、配偶者居住権を消滅させて売り出す。
- 第三者に貸す
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配偶者は収益させる権利を持っているので、第三者に貸し賃料を受け取る。
また、居住建物の所有者は、配偶者居住権を取得した配偶者に対し配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。このことは、配偶者は居住建物所有者に対し登記請求権を持つが、配偶者単独による登記申請はできないことを意味する。また、配偶者居住権を登記してあれば、居住建物所有者がその建物を第三者に売却したとしても、配偶者居住権は消滅していないから第三者に対抗できる。
配偶者居住権は、財産的価値があるが配偶者一代限りの権利なので、所有権よりも低く評価される。このことは、配偶者居住権を取得した配偶者は、今後の生活費に当てる預貯金も相続できる可能性が高くなると見ることもできる。(配偶者居住権絡みの評価方法については、 を閲覧されたし)。
なお、対象の建物は配偶者短期居住権と同様に、被相続人が所有していた建物である。ただ、相続開始の時に配偶者以外の共有者がいる場合は配偶者居住権を取得することはできない。その理由は、共有者である第三者に対し配偶者の無償居住を受忍させることができないからである。
自筆証書遺言
本題に入る前に、遺言書の種類について述べておく。遺言書には次の3種類がある。
- 自筆証書遺言(改正前)
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遺言者が自筆で遺言内容を記載する遺言書である。費用も掛からなく手軽に作成できるが、記載不備により無効になるリスクがある。遺言者が保管するため、死後遺言書の存在に気付かれなかったり、改ざん・破棄・紛失のリスクもある。また家庭裁判所で検認手続きをしなければ、法的に有効な遺言書にならない。
なお、遺言書に封がされていれば検認手続き前に開封してはいけなく、元々封がされていなくても検認手続きが必要である。
- 公正証書遺言
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遺言書を公正証書にしたものである。公証役場で証人2人の立ち合いのもと、公証人に遺言内容を述べ遺言書を作成してもらう。証人には遺言書の内容が知られてしまうが、原本は公証役場で保管するため、自筆証書遺言のようなリスクがなく安全である。また、検認手続きは不要である。
- 秘密証書遺言
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遺言者が遺言書に署名・捺印した遺言書を封印し、公証人と2人の証人の前で提出し、公証人、証人及び遺言者が封筒に署名・捺印をする。遺言の内容は遺言者以外誰も知ることができなく、また公証人に遺言の存在及び本人により作成されていることを証明してもらえることになる。ただ、公証役場で遺言書を保管しないので紛失のリスクがあり、公証人は遺言の内容をチェックしていないので不備があれば無効になるリスクもある。
また、自筆証書遺言と同様に検認手続きは必要となるが、遺言書は代筆やパソコンで作成してもOK(但し、遺言者が氏名記入と捺印するところの氏名は本人の手書き要)。
改正があったのは「自筆証書遺言」であり、書式が緩和され、また遺言書保管制度が新設された。これらの改正内容は次のとおり。
書式緩和(2019年1月13日施行)
これまでの遺言書は遺言者本人が全文手書きしなければならなかったが、今回の改正で、別紙の財産目録に関しては、パソコンで作成したり、通帳のコピーや登記事項証明書を付けることも可能となった。なお、別紙でなく遺言書本文中に明記する場合は、これまでどおり本人の手書きでなければならない。
財産目録のすべてのページにはこれまでどおり遺言者の署名・捺印が必要である。しかし、遺言書本文と財産目録との間で、あるいは複数ページの財産目録の間で、契印は不要である。
遺言書保管制度(2020年7月10日施行)
これまでは自筆証書遺言は遺言者が管理するしかなかったが、今回の改正により、遺言書保管所で自筆証書遺言を保管してもらえる制度が新設された。原本は遺言書保管所で保管されるので改ざん・紛失等のリスクがなくなった。なお、本保管制度を利用するか否かは任意である。
預かってもらうには、遺言者本人が遺言書保管所に出頭して遺言書の預かり申請をしなければならなく、本人確認のチェックを受けることになり、遺言者にとって手間を感じるかもしれないが、改ざん等の恐れがなくなるため家庭裁判所による検認手続きは不要になる。また、預ける際に遺言書保管官が遺言書の形式に不備がないか確認してくれるため、無効になるリスクが低くなる。
なお、病気等により出頭できない事情があっても、遺言者本人が出頭しないのであれば遺言書保管制度は利用できない。また、保管できる遺言書は無封で、かつ法務省令で定める書式で作成されてたものとなる。
保管された遺言書の取扱いは次のとおりとなる。
- 遺言者生存中
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- 遺言者はいつでも閲覧することができるが、自ら遺言書保管所に出頭する必要がある。
- 遺言者はいつでも遺言書保管を撤回することができるが、自ら遺言書保管所に出頭する必要がある。申請が撤回されると、遺言書保管官は遺言者に遺言書を返還し、遺言書に係る情報を消去する。なお、この行為は保管を撤回しただけなので、遺言書自体は有効である。
- 遺言者以外は、保管されているか否かの照会や閲覧等ができない。
- 遺言者死亡後
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- 遺言者が死亡しただけでは、遺言書保管所が遺言書を保管していることを相続人や受遺者等の関係者に通知しないので、関係者自ら動く必要がある。
- 誰でも、遺言書が遺言書保管所に保管されているか否かを照会できる。
- 相続人や受遺者等の関係者は、遺言書の閲覧、及び遺言書の画像情報等を用いた証明書(遺言書情報証明書)の交付の請求ができる。なお、遺言書の閲覧は遺言書を保管している遺言書保管所のみ可能となるが、遺言書情報証明書の交付はどこの遺言書保管所でも可能となる。なお、遺言書保管所は関係者の誰かに、交付・閲覧をさせたときは、速やかに他の関係者に遺言書を保管している旨を通知する。
その他
その他の改正として、「預貯金の仮払い」、「遺産の使い込み」、「遺留分」、「介護親族の請求権(特別寄与料の請求権)」及び「相続財産の登記」があり、これらの改正内容は以下のとおり。
預貯金の仮払い(2019年7月1日施行)
預貯金は遺産分割の対象なので、これまでは遺産分割が終了するまで、相続人全員の同意がない限り、相続人単独での払い戻しは原則としてできなかった。金融機関は何らかの方法で被相続人の死亡を知ったタイミングで被相続人名義の口座を凍結する。
そうなると、相続人は遺産分割が終了するまでの生活費や葬儀費用に困る事態が発生しうることになる。そこで今回の改正により、相続人全員の同意がなくても、遺産分割協議前に預貯金の払戻しが受けられる制度が新設された。この制度を利用した預貯金の引出し方法として、次の2つがある。
- 金融機関の窓口で直接引き出す方法
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相続人単独で引き出せることができるが、一人の相続人が引き出せる金額には次の制限がある。
- 相続開始時の口座残高 × 法定相続分 × 1/3 かつ
- 1つの金融機関につき150万円まで
- 家庭裁判所へ申立てて引き出す方法
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申立てを受けた家庭裁判所は、他の共同相続人の利益を害さなく、かつ仮払いの必要性があると認められる場合に、仮払いを認める。引き出せる金額に上限がないが、上記に比べ煩雑な手続きをしなければならなく、時間と費用が掛かる。
遺産の使い込み(2019年7月1日施行)
これまで、共同相続人の1人が相続開始から遺産分割までの間に被相続人の財産を使い込んでしまった場合は、その財産は遺産分割の対象にならなかったため、使い込んだ相続人が得する事態が生じた。この時、他の相続人が行える対処方法は次のとおりで、容易なことでなかった。
- 民事訴訟を起こし、財産を取り戻す。 訴訟となると使い込まれた相続人にとって負担が大きい。
- 全相続人の同意を取って、訴訟を起こさず遺産に組み戻す。 使い込んだ相続人の同意も必要なので現実的な方法でない。
今回の改正で、使い込んだ相続人を除いた全相続人の同意があれば、遺産に組み戻すことができるようになり、公平な遺産分割が容易に行えるようになった。
遺留分(2019年7月1日施行)
これまでは、相続人が遺留分を請求できる権利を「遺留分減殺請求権」と言い、物権的効力を有するとされていたことから、現物返還が原則とされていた。そうなると請求の対象が不動産であると不動産で返還しなければならないので、受遺者等と遺留分権利者の共有になることが多かった。共有になると、自由に売却したり貸したりできなくなることから、新たな紛争を生じさせる原因にもなっていた。そこで今回の改正では物権的効力を否定し金銭債権化することになり、請求権の名称も「遺留分侵害額請求権」と改められた。これにより遺留分権利者に遺留分侵害額に相当する金銭を支払って解決することになった。
ただ、金銭請求を受けた受遺者等が速やかに金銭を準備できないケースもあるので、受遺者等は裁判所に対し支払期限の猶予を求めることができる。
また、遺留分を算定するための財産は、相続開始時の遺産だけでなく、譲り受けた贈与の時期等により贈与も対象になる。今回の改正により対象となる贈与は次のようになったので付け加えておく。
- 相続人以外の者に対する贈与 死亡前1年以内の全ての贈与(これまでと変更なし)
- 相続人に対する贈与 死亡前10年以内の特別受益に当たる贈与
介護親族の請求権(特別寄与料の請求権)(2019年7月1日施行)[民法1050条]
法定相続人に限り、被相続人の介護に努めれば法定相続分とは別に寄与分[民法904条の2] が認められている。
これまで寄与分は法定相続人しか認められていなかったので、例えば被相続人の長男の嫁が夫に代わり介護しても、嫁は法定相続人でないので寄与分が認められなかった。しかし、今回の改正で法定相続人でない嫁(特別寄与者)でも貢献分を金銭に換算(特別寄与料)し、相続人に請求できる「特別寄与料の請求権」が新設された。
特別寄与料が認められる要件は次のとおり。
- 無償で被相続人の介護を行っていた(何らかの対価を得ていたら、清算済と判断される可能性あり)。 かつ
- 介護をしていた人は、相続人を除く被相続人の親族である。
介護する方は、介護している時から特別寄与料の請求(特に裁判所への申立て)に備え、日付けや出費の分かる介護記録を記載した日誌や領収証等を残すようにすべきである。
また、この請求権は自ら行使しなければならない。手順としては、まずは相続人との間で協議をすることになるが、もし相続人に請求しても話が纏まらなければ、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求することになる。また、請求できる期間の規定もあり、次の期間を過ぎると請求ができなくなる[民法1050条2項]。
- 相続開始及び相続人を知った時から6ヶ月(消滅時効) 又は
- 相続開始の時から1年(徐斤期間)
なお、特別寄与料が認められた場合、その寄与料に対する各相続人の負担額は、実際に引継いだ財産の相続分で按分することになる。また、特別寄与料は被相続人から遺贈されたと見なされ相続税の対象となり、特別寄与者が一親等の血族でなければ2割加算の対象にもなる。
相続財産の登記(2019年7月1日施行)
これまでは、法定相続分と異なる割合で財産を取得した場合は、取得方法により法定相続分を超えた分を登記などをしていなくても、第三者に対抗できる場合があった。例えばある不動産の遺言で、「遺贈する」と記載されていれば登記しないと第三者に対抗できないが、「相続させる」と記載されていれば登記していなくても第三者に対抗できた。登記しなくても第三者に対抗できるとなると、別の相続人が法定相続分を取得したと信じた第三者が、その相続人から法定相続分を買取った時に損害を被るリスクがあり、また登記制度に対する信頼も害されかねない問題があった。
そこで今回の改正では、取得方法に関係なく登記していないと、自己の法定相続分を超える部分は第三者に対抗できなくなった。