相続税計算手順の流れ図
流れ図の解説
次に、上記の流れ図に沿って相続税計算手順を解説する。
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- 各人の課税価格
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相続財産を取得した人毎に、法定相続分でなく、実際に取得した財産に対し「各人の課税価格」を計算する。
参考までに、「プラスの相続財産」の中に、被相続人等(被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族)が事業あるいは居住のために使っていた宅地等(宅地又は宅地上の権利)がある場合は、「小規模宅地等の特例」により、その宅地の一定の面積部分(小規模宅地等)に於いて、一定の割合を減額した評価額にすることができる。
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- 課税価格の合計額
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上記「 」で計算した「各人の課税価格」を合計する。
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- 課税遺産総額
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「課税遺産総額」の計算式は次のとおり。
課税=
遺産総額課税価格-
の合計額基礎控除額なお、上記「基礎控除額」は、平成27年1月1日以降から引下げられ、次の計算式になる。また、この計算式の「法定相続人の数」とは、法定相続人の中に相続放棄した人がいても、放棄がなかったものとした法定相続人の数である。
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- 各人の納付すべき相続税額
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「 」の「相続税の総額」に対し各相続人がどれだけ負担するかは、「 」の「課税価格の合計額」に対する「 」の「各人の課税価格」の割合となる。つまり、この割合で按分した金額が、各人の相続税額となる。
次に、「相続税額の2割加算」の適用を受ける法定相続人に対し、算出した相続税額にその相続税額の2割分を加算する。
最後に、この各人の(2割加算適用後の)相続税額から適用できる税額控除の額を差し引いた金額が、各人の納付すべき相続税額(百円未満切捨て)となる。
主な税額控除は、下表のとおりである。
配偶者の税額軽減 配偶者は、次の多い方の金額まで税額控除できる。
相続税×
の総額1億6千万円÷課税価格
の合計額相続税×
の総額配偶者の
法定相続分見方を変えれば、次のどちらかの条件を満たすと、配偶者の相続税額は「0円」となる。
配偶者の≦
課税価格1億6千万円配偶者の≦
実際の相続分配偶者の
法定相続分未成年者控除 相続人が未成年者(満18歳未満)の場合は、次の金額が相続税額から控除される。
10万円× (18歳-相続開始時)
の年齢障害者控除 相続人が満85歳未満の障害者の場合は、次の金額が相続税額から控除される。
10万円× (85歳-相続開始時)
の年齢なお、特別障害者の場合は、上記計算式の「10万円」が「20万円」に増額される。
なお、税額控除には上記以外にも幾つかあるが、全ての税額控除の中で「配偶者の税額軽減」のみが、申告書の提出を要件としている。従って、配偶者の税額軽減により相続税額が0円となり、相続税の納付が不要になったとしても、申告書の提出が必要である。
モデルケース
次の前提条件のモデルケースを基に、相続税を計算する。
前提条件
- 法定相続人と法定相続分
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法定相続人は、「配偶者」、「長男(22歳)」及び「長女(16歳)」とする。従って、各相続人の法定相続分は次のとおりとなる。
配偶者 1/2 長男(22歳) 1/4 長女(16歳) 1/4 - 遺産の内訳
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遺産の内訳は次のとおりとする。
プラスの財産
(墓・仏壇関係)13,250万円
(50万円)マイナスの財産 2,200万円 死亡保険金 2,000万円 死亡退職金 1,000万円 葬式費用 300万円 - 遺産分割
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3人の法定相続人で遺産分割し、各人が実際に取得した財産は次のとおりとする。
配偶者 ・プラス財産の内の8,500万円
・全マイナス財産2,200万円
・全葬式費用300万円長男 ・プラス財産の内の3,350万円
(墓・仏壇関係50万円を含む)
・全死亡保険金2,000万円
・全死亡退職金1,000万円長女 ・プラス財産の内の1,400万円
相続税の計算
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- 各人の課税価格
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実際に取得した財産に対し「各人の課税価格」を計算する(千円未満切捨て)。
- 配偶者
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プラス財産-
8,500万円マイナス財産-
2,200万円葬式費用=
300万円課税価格
6,000万円 - 長男
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長男は、みなし相続財産(死亡保険金+死亡退職金=3,000万円)及び墓・仏壇関係(50万円)を取得しているので、まず非課税財産の金額を計算する。
- 死亡保険金の非課税財産
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次の計算式が示すとおり、死亡保険金が限度額を超えているので、限度額の1,500万円が非課税財産の金額となる。
500万円×法定相続人の数=
3人限度額<
1,500万円死亡保険金
2,000万円 - 死亡退職金の非課税財産
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次の計算式が示すとおり、死亡退職金が限度額を超えていないので、死亡退職金の1,000万円が非課税財産の金額となる。
500万円×法定相続人の数=
3人限度額≧
1,500万円死亡退職金
1,000万円
よって、長男の非課税財産の金額は、
保険限度額+
1,500万円死亡退職金+
1,000万円墓・仏壇関係=
50万円非課税財産
2,550万円次に、長男が取得した全財産の課税価格を計算すると、
プラス財産+
3,350万円みなし相続財産-
3,000万円非課税財産=
2,550万円課税価格
3,800万円 - 長女
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プラス財産=
1,400万円課税価格
1,400万円
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- 課税価格の合計額
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各相続人の課税価格の合計額は、
配偶者分+
6,000万円長男分+
3,800万円長女分=
1,400万円課税価格合計額
11,200万円
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- 課税遺産総額
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まず「基礎控除額」を計算すると、
よって、「課税遺産総額」は、
課税価格合計額-
11,200万円基礎控除額=
4,800万円課税遺産総額
6,400万円
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- 相続税の総額
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まず、各人が課税遺産総額を法定相続分で按分して取得(千円未満切捨て)したと仮定して相続税額を計算する。
- 配偶者
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まず、法定相続分の取得金額は、
課税遺産総額×
6,400万円法定相続分=
1/2法定相続分の
取得金額
3,200万円次に、下表(相続税の速算表)の「税率」と「控除額」から法定相続分の税額を計算すると
法定相続分の×
取得金額
3,200万円税率-
20%控除額=
200万円法定相続分の税額
440万円 - 長男
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まず、法定相続分の取得金額は、
課税遺産総額×
6,400万円法定相続分=
1/4法定相続分の
取得金額
1,600万円次に、下表(相続税の速算表)の「税率」と「控除額」から法定相続分の税額を計算すると
法定相続分の×
取得金額
1,600万円税率-
15%控除額=
50万円法定相続分の税額
190万円 - 長女
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長女は、法定相続人の順位が長男と同じなので、長男と同じ税額になり、
法定相続分の税額
190万円
最後に、上記で求めた各人の税額を合計し、「相続税の総額」を求める(百円未満切捨て)。
配偶者の税額+
440万円長男の税額+
190万円長女の税額=
190万円相続税の総額
820万円相続税の速算表取得金額 税率 控除額 1,000万円以下 10% ― 3,000万円以下 15% 50万円 5,000万円以下 20% 200万円 1億円以下 30% 700万円 2億円以下 40% 1,700万円 3億万円以下 45% 2,700万円 6億万円以下 50% 4,200万円 6億円超 55% 7,200万円
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- 各人の納付すべき相続税額
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各人毎に、次の手順で納付すべき相続税額を求める。
まず、「相続税の総額」を、「課税価格の合計額」に対する「各人の課税価格」の割合で按分する。次に、相続税の2割加算を適用すべきところだが、本モデルケースの相続人は全員、配偶者又は一親等の血族に当たるので、2割加算は適用外となる。最後に、税額控除を適用できるものがあれば、按分して求めた税額から税額控除の額を差し引けば良い(百円未満切捨て)。
- 配偶者
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按分で求める相続税額は、
相続税の総額×
820万円配偶者の÷
課税価格
6,000万円課税価格の=
合計額
11,200万円相続税額
439.2867万円但し、配偶者の課税価格が1億6千万円以下なので、配偶者税額軽減の適用を受けることにより、
納付すべき相続税額
0円 - 長男
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按分で求める相続税額は、
相続税の総額×
820万円長男の÷
課税価格
3,800万円課税価格の=
合計額
11,200万円相続税額
278.2142万円適用できる税額控除がないので、相続税額の百円未満切捨てた額が、納付すべき相続税額となる。
納付すべき相続税額
278.21万円 - 長女
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按分で求める相続税額は、
相続税の総額×
820万円長女の÷
課税価格
1,400万円課税価格の=
合計額
11,200万円相続税額
102.5万円長女は18歳未満なので、未成年者控除の適用を受けることができ、控除額は、
10万円× (18歳-長女の年齢) =
16歳控除額
20万円以上により、納付すべき相続税額(百円未満切捨て)は、
相続税額-
102.5万円控除額=
20万円納付すべき相続税額
82.5万円