金沢駅上空と新型コロナウイルス

昨年、2019年版の地価動向として、毎年3月に公表される公示価格※1をベースに記事を投稿した。それに合わせ今年も公示価格をベースに2020年版地価動向を投稿することも考えていたが、今年は特殊な事情があるため、9月30日に公表される基準地価※1を待って投稿することにした。と言うのも、長年続いた下落からようやく回復基調にあった地価であったが、今年前半は昨年までと異なり新型コロナウィルスにより経済活動を自粛せざるを得なったことにより地価動向が一変すると予想し、この特殊事情を記事に反映させたかったからである。
以下に、今年の基準地価をベースに、地価の動向を日本全体及び地元の視点から分析する。

なお、本記事で使用している矢印記号の意味は次のとおり。
 上昇: 前回の地価に比べ上昇
 下落: 前回の地価に比べ下落
 横這い: 前回の地価と同じ

公示価格は一般の土地取引の指標を提供する役割も持ち、定められた地価調査対象地点に対する、その年の1月1日時点の㎡単価である。一方基準地価は公示価格の補完的な役割を持ち、地価調査対象地点に対する、その年の7月1日時点の㎡単価である。地価調査対象地点は公示価格と基準地価では別々に定めているため異なるが、同一地点もあるため同一地点で比較すれば半年間の地価動向が分かる。
なお、本投稿で記載している半年毎の変動率データと基準地価の変動率データとを比較する場合は、次のことを踏まえて見る必要がある。
  • どちらも複数の調査地点の平均値であるが、半年毎の変動率の調査地点は基準地価の調査地点の一部に過ぎないこと。
  • 変動率の対象期間の日数が異なるので、単純に変動率の値で比較できないこと。つまり例えば、直近の半年間の下落率が2%、直近の基準地価の下落率が同じ2%であった場合、同じ下落の度合ではなく、半年間の下落の度合は基準地価の2倍の度合で下落していることになる。なぜなら半年間の下落率は、基準地価の1年間の下落率に比べ、1/2期間の下落率を表しているからである。

日本全体の地価動向

基準地価の変動率を日本全体の視点で捉えると次のとおり(Cf.表[全-1])。
全国
  • 全用途では、0.6%下落で3年ぶりに下落した。
  • 住宅地では、0.7%下落で下落率が拡大した。
  • 商業地では、0.3%下落で5年ぶりに下落した。
三大都市圏※2
  • 全用途では、昨年までの上昇から横這いになり、失速した。
  • 住宅地では、0.3%下落で7年ぶりに下落した。
  • 商業地では、0.7%上昇と上昇率が大幅に縮小した。
地方圏※2
  • 全用途では、0.8%下落で下落率が拡大した。
  • 住宅地では、0.9%下落で下落率が拡大した。
  • 商業地では、昨年28年ぶりに上昇したが、0.6%下落となり再び下落した。
  • 地方4市※2に限ると、全用途、住宅地、商業地共に上昇を維持したものの、上昇率が縮小した。

以上から、今年の基準地価は都市、地方に関わらず、地価の局面が変わり、マイナス方向に働いた。特に、都市部(三大都市圏と地方4市)の商業地は昨年まで上昇率が高かっただけに大きく失速した。
局面が変わった要因は、新型コロナウイルスの感染拡大である。日本の経済活動が停滞し、また近年好調だったインバウンド需要が、今年になりほぼ完全に消失した(Cf.表[全-2])。これにより不動産投資の減退、ホテルや店舗の売上げ激減が起こり、特に商業地の地価に大きな影響を与えることになった。

なお、「地価の動向(2019年版)」記事内で今後の地価動向について、「バブル時代に盛んであった転用目的の不動産取引と違い、経済活動の裏付けがある上昇であり、全体でみれば地価は今後も堅調に推移する可能性が高いと考える。」と予想したが、たった1年で見事に外れた。

今年の地価局面が変わった要因が新型コロナウイルスである以上、今後の地価の回復時期はコロナによる経済活動停滞傾向がいつまで続くかによる。停滞傾向が一時的なものになるのなら再び地価が回復基調に戻るだろうが、長引くようであれば下落基調にどっぷりはまって行くことになるのだろう。今後の地価動向はコロナ次第であり不透明な状況である。
要因コロナの信憑性を高めるために
地価下落基調の要因は基準地価の変動率のデータをベースに新型コロナウイルスと述べたが、このデータだけでは私自身が説得力に欠けると思ってしまう。と言うのも、基準地価はその年の7月1日時点のものであり、かつ変動率に反映される期間は1年間となるからである。つまり今年の基準地価の変動率には、コロナの影響を受けていない昨年後半6ヶ月も対象になっているからである。
要因がコロナであることに間違いないと思いつつも、もし昨年後半から地価下落の基調になっていれば、少なくともコロナ以外にも地価下落に大きく影響した要因があることになる。そこでコロナ拡大と関係ない昨年後半はまだ地価の回復基調が継続していたことを確かめることにより、他に特別な下落要因がなかったことを確認しておく。
表[全-3]」は2019年後半と2020年前半の変動率を分けて表したものである。データのない項目もあるが、入手できなかっただけで、都合の悪いデータを隠している訳でない。
まず、全用途の調査地点数の殆どは、住宅地と商業地の調査地点で占めている。全国の住宅地と商業地が共に上昇基調から下落基調に反転しているので、全国の全用途もデータがなくても上昇から下落に反転したと推測できる。従って、日本全体の視点で見れば昨年後半まで上昇基調だったが今年前半になって下落基調に反転したと判断できる。
更に、全国の住宅地と商業地の変動率を比べても、商業地の方が大きく反転しており、また各圏域の変動率を見ると特に都市部(三大都市圏と地方4市)の商業地の変動が全国に比べ大きかったことが分かる。
以上から、昨年後半まで地価の回復基調が継続しており、コロナが感染拡大した今年になって、下落基調に変わったことが顕著に読み取れ、またコロナによる経済活動停滞が都市部の商業地を中心に大きな影響を与えたと判断できる。
※上段:今年(2020年)、下段の括弧内:昨年(2019年)
※「伸率」は前年同月比を表す。
※公示価格と基準地価の同一対象地点に於ける変動率
※上段:今年(2020年)前半、下段の括弧内:昨年(2019年)後半
※空白項目はデータを入手できなかったことを示す。
圏域等の分類と各エリアは次のとおり。
東京圏
首都圏整備法で定める既成市街地と周辺の近郊整備地帯を含む市町村。東京都、神奈川県の大部分と茨木、埼玉及び千葉3県の東京寄りの地域。
大阪圏
近畿圏整備法で定める既成都市区域と近郊整備区域を含む市町村。大阪府全域と京都、兵庫及び奈良3府県の大阪寄りの地域。
名古屋圏
中部圏開発整備法で定める都市整備区域を含む市町村。愛知県の大部分と三重県の愛知寄りの地域。
三大都市圏
「東京圏」+「大阪圏」+「名古屋圏」の地域。
地方圏
三大都市圏を除く地域。
地方4市
地方の主要4市で、札幌、仙台、広島及び福岡。

北陸の地価動向

以下に、北陸三県の地価動向について、主に基準地価をベースにして各県を比較しながら述べる。
※人数には、観光・レジャー目的の訪日外国人以外に、ビジネス、親族・知人訪問目的及び1年未満の留学目的などで日本を訪れた外国人も含む。

石川県

まず、基準地価をベースにした全用途、住宅地及び商業地別の地価動向は次のとおりとなる(Cf.表[石-1])。
全用途
1992年(H.4)から2018年(H.30)の27年連続下落が続き、昨年は上昇(0.6%上昇)に転じたものの今年は再び下落(1.4%下落)に転じた。
住宅地
1996年(H.8)から2018年(H.30)の23年連続下落が続き、昨年は上昇(0.4%上昇)に転じたものの今年は再び下落(1.1%下落)に転じた。
商業地
1996年(H.8)から2014年(H.26)の19年連続下落が続き、北陸新幹線開業の2015年(H.27)には下落から脱出し横這いになり、2016年以降から昨年まで上昇が続いていたものの、今年は下落(1.9%下落)に転じた。
また今年は、上昇地点が73地点減少し19%に、横這いが6地点増加し14%に、下落が68地点増加し67%となり、下落地点が急増した(Cf.表[石-2])。更に、昨年後半(コロナ感染拡大前)と今年前半(コロナ感染拡大中)に分けて変動率をみても、全用途、住宅地及び商業地のどれを取っても、上昇から下落に転じている(Cf.表[石-3])。
以上から、石川県は昨年後半までの上昇基調から、新型コロナウイルスが感染拡大した今年になって下落基調に転じたことが顕著に読み取れる。
次に、市町村別で地価動向を見てみる。
今年は殆どの市町村に於いて全用途、住宅地、商業地のどれを取っても変動率が下落した。その中で下落しなかったのは、次の限られた地域である(Cf.表[石-4])。
金沢市
商業地は北陸新幹線効果で昨年まで高い上昇率を維持していたが、新型コロナウイルスの影響をもろに受け、ホテルや店舗など商業関係の需要が急激に失速し、今年の変動率が下落に急転した(昨年6.2%上昇⇒今年1.4%下落)。このことは、新幹線駅前の地価動向からも言える(昨年6%上昇⇒今年2.83 %下落Cf.表[石-5])。
県内の他の市町村及び北陸の他県と比べ、次の要因が特徴的だと考える。
  • 国内の観光客だけでなく訪日外国人も多かったので、コロナの影響を受け易かった(Cf.表[三-1])。
  • 北陸新幹線金沢駅開業(2015年)によりホテル建築が盛んであったが既に過剰気味だった感があったところに、コロナ感染拡大により不動産投資にブレーキが掛かった(富山市と対照的)。
一方、住宅地は上昇率は縮小したものの、上昇を維持した。住宅地もコロナの影響を受けてはいるが、商業地に比べ影響度が小さいことによるものと考える。
野々市市
全用途と住宅地は上昇率は縮小したものの、上昇を維持した。商業施設の進出なども加わり金沢市のベットタウンとしての利便性の良さから下落に転じなかったと考える。
小松市
商業地の変動率は横這いであり、石川県の商業地に於いて下落しなかったのは小松市のみであった。北陸新幹線の終点駅は、現在金沢駅であるが、2023年には敦賀駅(福井県)まで延伸される予定であり、延伸途中の小松市に北陸新幹線小松駅も開業することになる。それを見越して新幹線駅前の地価は上昇を維持(昨年5.19%上昇⇒今年2.47%上昇Cf.表[石-5])しており、小松駅駅前を中心とした不動産需要により、辛うじて下落に転じなかったと考える。
※括弧内は、全調査地点数に対する各基調調査地点数の割合
※公示価格と基準地価の同一調査地点に於ける変動率
※上段:今年(2020年)、下段の括弧内:昨年(2019年)
※金沢市:県庁所在地。現時点、金沢駅は北陸新幹線の終点駅
※野々市市:隣接する金沢市のベッドタウン
※小松市:金沢市に次ぐ市。石川県の空の玄関口である小松空港があり、新幹線小松駅開業予定(2023年)。
※上段:今年(2020年)、下段:昨年(2019年)
※金沢駅前:金沢市本町2-16-16(金沢駅より250m)
※小松駅前:小松市日の出町1丁目147番外(小松駅より200m)

富山県

まず、基準地価をベースにした全用途、住宅地及び商業地別の地価動向は次のとおりとなる(Cf.表[富-1])。
全用途
1993年(H.5)から現在までの28年連続下落が続いており、今年は昨年に比べ下落率が拡大した(昨年0.1%下落⇒今年0.5%下落)。
住宅地
1998年(H.10)から現在までの23年連続下落が続いており、今年は昨年に比べ下落率が拡大した(昨年0.2%下落⇒今年0.5下落)。
商業地
1993年(H.5)から2017年(H.29)の25年連続下落が続き、北陸新幹線効果により2018年(0.1%上昇)、2019年(0.1%上昇)と2年連続上昇したものの、今年は再び下落(0.4%下落)に転じた。
また今年は、上昇地点が21地点減少し11%に、横這いが2地点減少し41%に、下落が23地点増加し46%となり、下落地点が増加した(Cf.表[富-2])。更に、昨年後半(コロナ感染拡大前)と今年前半(コロナ感染拡大中)に分けて変動率をみても、住宅地と商業地が共に、上昇から下落に転じている(Cf.表[富-3])。なお、全用途の半年毎の変動率を調べることができなかったが、調査地点の大部分が「住宅地」と「商業地」で占めることを踏まえれば、全用途も住宅地及び商業地と同様に、昨年後半は「上昇」で、今年前半は「下落」と推測する。

以上から、富山県は昨年後半までの上昇基調から、新型コロナウイルスが感染拡大した今年になって下落基調に転じており、石川県と同様な基調であるが、もう少し丁寧に両県のデータを見比べると、同様な基調にも違いが見えてくる。それは、全用途、住宅地、商業地のどれをとっても、石川県は富山県に比べ地価の変動が大きく、特に石川県の商業地の変動が大きかった。その要因として次のことが挙げられる。
  • 両県の県庁所在地のコロナ影響度の違いによるもの(下記参照)。
  • 富山県は石川県に比べ、訪日外国人客が少ないため(2019年の石川県約60万人、富山県約34万人 ; Cf.表[三-1])、その分コロナによる地価への影響を受け難かった。
次に、市町村別に地価動向を見てみる。
今年は殆どの市町村に於いて全用途、住宅地、商業地のどれを取っても変動率が下落した。その中で下落しなかったのは、次の限られた地域である。
富山県と石川県を県単位で比べると同じ基調で今年地価が反転し下落していたが、県庁所在地の富山市と金沢市を比べると基調が異なる。住宅地、商業地、全用途のどれを取っても、昨年の金沢市は富山市より上昇率が高かったが今年は全用途と商業地が下落に反転したのに対し(Cf.表[石-4])、富山市は全てで昨年と同様に上昇を維持し(Cf.表[富-4])、また新幹線駅前の地価を見ても、上昇を維持した(Cf.表[富-5])。この違いの要因として次のことが挙げられる。
  • 金沢市は富山市に比べ北陸新幹線の恩恵を受け、特に駅周辺の商業地の上昇率が非常に高かったため、基調が変わると反動が大きくなったと考える。
  • 金沢市はホテル投資が既に過剰気味だったが、富山市は金沢市より遅れる形でホテル整備が進んでおり、地価を下支えしたと考える。
船橋村
富山県の市町村別変動率のデータを見ていると、石川県民の私が聞いたことのない「船橋村」が新型コロナウイルス影響下でも上昇していたので、村自体に興味が沸き調べてみたところ次のとおり。
富山県中新川郡舟橋村は、富山駅から電車で15分のところに位置し、富山市のベッドタウンである。面積は3.47K㎡で日本一小さな自治体である。人口は3,219人(2020年10月1日現在)であるが、20年間で倍増し、平成17年の国勢調査で人口増加率全国第2位となっている。15歳未満の人口割合は21.8%であり日本1位である(平成22年国勢調査)。市町村合併を避けていて、その理由は村から学校を無くしたくないからで、子供を村でしっかり教育したいと考えているからである。
地価が上昇しているのは富山市のベットタウンと言うだけでなく、教育熱心の村であり、魅力ある村造りをしているからだと考える。
※括弧内は、全調査地点数に対する各基調調査地点数の割合
※公示価格と基準地価の同一調査地点に於ける変動率
※全用途の項目が空白になっているのは、データを入手できなかったため
※上段:今年(2020年)、下段の括弧内:昨年(2019年)
※富山市:県庁所在地。北陸新幹線富山駅あり。
※船橋村:富山市のベットタウン
※上段:今年(2020年)、下段:昨年(2019年)
※富山駅前:富山市桜町2-1-8(富山駅より320m)

福井県

まず、基準地価をベースにした全用途、住宅地及び商業地別の地価動向は次のとおりとなる(Cf.表[福-1])。
全用途
1996年(H.8)から現在までの25年連続下落が続いており、今年は昨年に比べ下落率が僅かに拡大した(昨年1.5%下落⇒今年1.6%下落)。
住宅地
1998年(H.10)から現在までの23年連続下落が続いており、今年は昨年に比べ下落率が僅かに拡大した(昨年1.6%下落⇒今年1.7%下落)。
商業地
1993年(H.5)から現在までの28年連続下落が続いており、今年は昨年に比べ下落率が少し拡大した(昨年1.5%下落⇒今年1.7%下落)。
また今年は、上昇地点が5地点減少し10%となり、その分横這いと下落に振り分けられた形になっている(Cf.表[福-2])。なお、昨年後半(コロナ感染拡大前)と今年前半(コロナ感染拡大中)に分けた変動率を調べることができなかったが、年毎のデータを見ても微かな下落なので、今年になって顕著に下落幅が拡大していないと推測できる。
以上から、福井県の場合は県全体で捉えると、今年は微かに下落率が拡大した程度で、新型コロナウイルスの影響が見えてこない。福井県に於けるバブル崩壊から現在までの変動率の動向を見ると、1990年に最も高い上昇率(住宅地:8.2%上昇、商業地:10.4%上昇)となり、それ以降下落基調に反転し、2003年に下落率のピーク(住宅地:4.6%下落、商業地:7.5%下落)を迎えた後は、下落率の幅は徐々に縮小しながら現在まで下落を続けている。ただ、2016年以降の5年間は下落率の幅が住宅地、商業地共に1.6%~1.9%に収まっており、今年も含め大きな変動はない。
コロナの影響を感じ難い要因の1つに、福井県は元々訪日外国人が他の2県に比べ、極端に少なかかったことが挙げられる(2,019年は6.4万人であり石川県の11% ; Cf.表[三-1])。他の2県と同様にコロナにより観光客が激減していても、相対的に少なかったことが地価への影響が抑えられたと見る。
次に、市町村別に地価動向を見てみる。
今年は下落しなかったのは敦賀市の商業地のみで、その他の市町村は全用途、住宅地、商業地のどれを取っても下落した。新型コロナウイルスによる地価動向をデータから読み取り難い福井県に於いて、私が注目した市町村は、北陸新幹線延伸によりもうすぐ駅が開業する福井市と敦賀市、その他福井県屈指の温泉街(芦原温泉)を抱えるあわら市である。
全用途、住宅地及び商業地共に下落率は拡大したが、全用途と住宅地の拡大は僅かであり、商業地の下落率(昨年0.1%下落⇒今年0.4%下落)が住宅地に比べ少し大きかった(Cf.表[福-4])。一方新幹線駅前を見ると、上昇率は縮小したものの上昇を維持した(昨年1.20 %上昇⇒今年0.59 %上昇Cf.表[福-5])。
福井市の商業地は2012年以降下落率が縮小傾向で(2012年以前はデータがない)、昨年の下落率は0.1%まで縮小していた。持続している北陸新幹線の期待感から、今年の商業地は長年の下落から脱出するものと思っていたが、予想に反し、商業地は下落率が拡大した。しかし、駅前の局地を見ると上昇を維持していることから、新幹線効果がコロナによる商業地全体の下落拡大を最小限に抑えたと考える。
敦賀市
全用途、住宅地及び商業地共に、変動率は昨年と殆ど変化がない(Cf.表[福-4])。ただ、敦賀市の商業地は福井県で唯一下落せず横這いの地域であった。また、新幹線駅前を見ると依然上昇を維持している(昨年1.27%上昇⇒今年1.25%上昇Cf.表[福-5])。
以上から、敦賀市の商業地が福井県で唯一横這いであったのは、北陸新幹線延伸後の終点駅としての期待感が不動産需要を下支えしているからだと考える。
あわら市
全用途、住宅地及び商業地共に、昨年に比べ下落率は少し拡大した(Cf.表[福-4])。全用途に於ける過去6年間の変動率の推移を見ると、毎年下落率を縮小しながら下落し続けていたが、今年は下落率を少し拡大していることから、コロナの影響との見方もできなくない。ただ、コロナの影響を受け易い商業地の過去6年間の推移を見ると、2017年(前年2.0%下落⇒当年2.2%下落)、2018年(前年2.2%下落⇒当年2.3%下落)にも下落率が拡大していることから、今年はコロナの影響で下落率が拡大したと言い切れない(あるいは、コロナだけでなく温泉街の景気低迷によるものなど潜在的な別の要因もあるのかもしれない)。
※福井県は、石川県と富山県の様に全用途のデータを入手できなかったので、住宅地+商業地のデータとなっている。調査地点は、全用途が214地点に対し、住宅地+商業地が207地点と調査地点全体の大部分を占めている。
※括弧内は、全調査地点数に対する各基調調査地点数の割合
※公示価格と基準地価の同一調査地点に於ける変動率
※全項目が空白になっているのは、半年毎のデータを一切入手できなかったため
※上段:今年(2020年)、下段の括弧内:昨年(2019年)
※福井市:県庁所在地。北陸新幹線延伸により、福井駅開業予定(2023年)
※敦賀市:北陸新幹線延伸後の終点駅として敦賀駅開業予定(2023年)
※上段:今年(2020年)、下段:昨年(2019年)
※福井駅前:福井市大手2-6-1(福井駅より180m)
※敦賀駅前:敦賀市白銀町5-27(敦賀駅より180m)

北陸三県の総括

全国の地価動向と同様に北陸三県も新型コロナウイルスの影響を受けた。
県単位で見ると、石川県は最もコロナの影響を受け、福井県はコロナの影響を明確に見えてこなかった。しかし、市町村単位あるいは更に局地的に見ると福井県でもコロナの影響があったことが分かる。
特に、既存の新幹線駅の市(及び予定の市)の商業地では新幹線効果とコロナのせめぎ合いが見て取れ、大雑把に整理すると次のとおり。
※今回の分析では県庁所在地の新幹線駅の採用と県庁所在地以外の開業予定の新幹線駅を各県に1駅のみの採用としたため、実際には上記以外の新幹線駅も存在する。