エアコンのリモコン

最近は持ち家だけでなく、賃貸物件でも当たり前のように付いているエアコンであるが、以外と誤解しているのがドライ機能である。先日テレビを見ているとエアコンのドライ機能についての話題で、私自身がドライ機能を誤解していたことを知り、エアコンのドライ機能について調べ纏めてみた。

基礎知識

本題に入る前に、基礎知識として「体感温度」と「凝結」について解説する。なお、基礎知識のある方は、「冷房とドライの関係」から閲覧されたし。

体感温度

人間の肌が感じる温度は、気温のみに影響するのでなく、湿度や風等の影響も受けている。この人間の温度感覚を定量的に表現したものが「体感温度」である。気温が一定の場合、湿度が高い方や風速が弱い方が体感温度はより高くなり、逆に湿度が低い方や風速が強い方が体感温度は低くなる。
つまり、室内にいる時、気温を下げなくても、扇風機や除湿器を使用することでも涼しく感じることになる。

参考までに、気温に湿度及び風速を反映させた体感温度は、こちらのシミュレーションで求めることができる。

凝結

空気中には、水蒸気(気体になった水分)が存在していて、水蒸気量は空気1㎥に対し、水蒸気が何g含まれているかで表す(単位:g/㎥)。
また、空気中に含むことができる水蒸気量には限界があり、水蒸気量が限界に達した状態を「飽和状態」と言い、この時の気温を「露点」(露点温度)と言い、飽和状態になっている時の水蒸気量を「飽和水蒸気量」と言う。
飽和水蒸気量は温度によって左右され、温度が高くなれば飽和水蒸気量は多くなる。従って、飽和状態に達していない空気でも、温度を下げて行けば飽和水蒸気量が少なくなり、いずれ飽和状態になる。飽和状態(露点温度)から更に温度を下げると飽和水蒸気量を超えた水蒸気は水蒸気としていられなくなり、「凝結」(「ぎょうけつ」と読み、水蒸気の一部が気体から液体に転化する現象のこと)が起こる。
要するに、室内の温度を下げ凝結が起これば、空気中の水蒸気量が少なくなり、室内は除湿されたことになる。

参考までに、凝結は日常生活に於いても誰もが体験していて、私が思い付く例として以下のものが挙げられる。

  • 私は夏場に出かける時は、前日にペットボトルを冷凍庫に入れ、当日中身を凍らせた状態のペットボトルを持って出かける。長時間冷たい水を飲むことができるので有り難い。その反面冷凍庫から出したペットボトルは数分でペットボトル表面全体に大量の水滴が付く難点がある。
    この水滴の現象は、密封されたペットボトルの水が超常現象によりペットボトルの外に移動したのでなく、ペットボトルに接する空気が冷え切ったペットボトルによって冷やされ、飽和水蒸気量が少なくなることにより気体(水蒸気)として維持できなくなり、凝結により液体(水滴)に転化しただけである。
  • 結露も同様である。冬場に部屋の空気を暖房機器で暖めると屋外と室内で気温の差が発生し、窓ガラスに接する室内の空気が屋外の空気で冷やされるガラスによって冷やされることになるが、この時に室内の湿度が高いと気体(水蒸気)として維持できなくなり、凝結により液体(水滴)に転化し、窓ガラスに結露が発生する。
  • 余談でもあるが、先日、ある科学雑誌を読んでいたら水蒸気量絡みの記事が掲載されていて、次のような内容であった。
    昨今の日本に於いて極端な豪雨が度々発生し、地球温暖化が原因と言う説があるが、そのメカニズムは良く分かっていなかった。今回、そのメカニズムの一旦を担う地上の気温と大気中の水蒸気量の関係が明らかになったとのこと。
    上記でも説明したとおり、気温が上昇すれば飽和水蒸気量が多くなるので、気温が高い方が水蒸気を多く含む。大気の成分の中で気象や気候に大きく影響を与えるのが水蒸気量であり、大量の水蒸気を含む空気は、時として豪雨をもたらす。
    これまでは研究室での実験から導きだされた「クラウジウス・クラペイロンの定理」により、地上の気温が1℃上昇すれば、上空の大気の水蒸気量は7%増えることになると考えられていたが、実際の大気上の水蒸気量を測定するのは難しく、大気中もこの定理どおりになるのか良く分かっていなかった。
    しかし、GPSを利用した15年分のデータの蓄積により、大気中の水蒸気量を精度よく高頻度で測定できるようになり、その原理は次のとおりである。
    GPSは、GPS人工衛星から常に発信されている時刻と衛生位置情報を載せた電波を、地上の受信機(e.g. カーナビ、スマートフォン)が受信することにより、受信までに掛かった時間から自らの受信機の位置を割り出している。この時の電波の経路は、水蒸気量が多いほど屈折により遠回りし、電波の到着時刻が理論値より遅くなり、この時間のズレから観測地点の上空の水蒸気量を正確に推測できるようになった。なお、日本は、地殻変動を監視するためにGPSを利用した電子基準点が1000箇所以上あり、この観測網を利用することにより、日本各地の上空の水蒸気量を観測できる。
    このGPSを使った水蒸気量の観測データを分析すると、地上の気温が1℃上昇すると、その上空の水蒸気量が最大で11~14%も増える場合があることが分かった。「クラウジウス・クラペイロンの定理」では、単純に気温の上昇に伴う飽和水蒸気量の増加分しか考えていないが、実際の大気上では、地上の気温が上昇すると、大気の対流が活発になり、水蒸気を多く含んだ大気が地上から上空に向かって供給され、水蒸気を含む大気の層が厚くなるのに加え、雲ができる際に放出される凝結熱で上空の気温が上昇し、上空に於ける水蒸気量は定理による予測よりも増加することになる。このことは地球温暖化が豪雨を増加させる要因の1つとみることができる。

冷房とドライの関係

エアコンのドライ(除湿)機能は、凝結により水蒸気量を減らすことで実現していて、仕組みは次のとおりである。

室内の空気をエアコン本体内に取込む。右矢印 取込んだ空気を本体に内蔵されている熱交換機で冷却する。右矢印 冷却された空気は凝結により除湿される。右矢印 除湿された空気を室内に放出し、気体から液体になった水を屋外に放出する。

この仕組みからも分かるが、除湿をするために空気を冷却する必要があり、言い方を代えれば、冷却することにより除湿が行われている。つまり、ドライ機能と冷房機能は本体内では同じ処理を行っている。違いは、冷却の強さ(=除湿の強さ)だけであり、ドライ機能は冷房機能より冷却(=除湿)の能力が弱い。
ただ、注意しなければならないのは、ドライ機能が付いた当初のエアコン(以下、「旧ドライ機能」と言う。)は、現在のドライ機能(以下、「新ドライ機能」と言う。)とは、機能が若干(消費電力の観点から捉えると大きく)異なっていることである。
旧ドライ機能は、あくまで除湿のみで冷却することはない。この機能を実現するために、本体内の処理は、新ドライ機能と同様な処理をした上で、冷却されてしまった空気をわざわざ暖める追加処理を行い、利用者に冷却せずに除湿しているように見せかけている。
ドライ機能が旧から新に替わったタイミングは、2011年(平成23年)東日本大震災である。原子力発電所の停止で電力不足に陥り、国がエアコンメーカーに対しわざわざ暖め直すドライ機能の改善を求めた。これにより暖め直すことを取り止め、その分の電力消費を抑えた現在の新ドライ機能が誕生することになった。
なお、最近のエアコンには、現在一般的となっている室内を冷やす新ドライ機能の他に、旧ドライと同等な機能である室内を冷やさない除湿として「再燃除湿」機能が付いたものもある。私は、再燃除湿機能を正確に把握していないが、取込む空気の温度と全く同じ温度にして放出しているのであれば、理論的には実際の温度に変化がなくても除湿されているので、体感温度が下がり利用者は涼しく感じる筈である。ちなみに、再燃除湿機能が付いているエアコンは上位機種に多いようだ。

エアコンにより名称が異なったり、付いている機能が違うと思うが、一般的に現エアコンの冷房・除湿の名称には、「冷房」、「弱冷房」、「ドライ」(新ドライ機能のことであり、エアコンによっては「除湿」と呼ぶ場合もあり。)及び「再熱除湿」があり、冷却効果、除湿効果及び消費電力との関係は次のとおり。

冷却効果
「冷房」>「弱冷房」>「ドライ」>「再熱除湿」
除湿効果
「冷房」>「弱冷房」>「ドライ」
消費電力
「再熱除湿」>「冷房」>「弱冷房」>「ドライ」
※本解説の「旧ドライ機能」は「再燃除湿」の位置になる。
※除湿効果に於ける「再熱除湿」の位置は、私の知識及び調査不足のため良く分からず。

所見

私は、東日本大震災前に購入したエアコンを持っている。これまで「ドライ」機能は新旧に関わらず、湿気を取り乾燥させるだけの機能で、室内を冷やすことはないと思い込み、冷やさないと言うことは消費電力が冷房機能より少ないと根拠もなく判断していた。今回とんでもない勘違いしていることが分かり、今後はエアコンの冷房機能と除湿機能の特性を踏まえた上で、賢く機能を使い分けていきたい。