上空から見た台風

北半球の台風は必ず反時計回り(南半球では必ず時計回り)に回転するが、回転する原因はコリオリ力が働くからである。このコリオリ力が赤道では働かない旨の記事を見かけ違和感を持ったことから、私なりに赤道ではコリオリ力がどうなるのか考えてみた。

違和感を持った経緯

先日、インターネット上でサイトを閲覧していると、「赤道ではコリオリ力が働かないから台風ば発生しない」旨の記事を見かけ、「赤道ではコリオリ力が働かい」に違和感を持ってしまった。そこで、ググって色んなサイトを見てみると、次のように記載してあり、明確に「赤道ではコリオリ力が働かない」と述べているものや、そのように受取れるものが多かったが、中にはコリオリ力が働かないと言わずに「回転に付与しない」と述べているものもあり、正解はどれなんや!と思ってしまった。
  • コリオリ力は、赤道ではゼロである。
  • 赤道付近を東西方向に飛ぶ物体は緯度をまたがらないのでコリオリ力は働かない。
  • コリオリ力は高緯度ほど大きくなり、赤道では0である。
  • コリオリ力f=2Ωsinφ [Ω:角速度、φ:緯度] なので、赤道では緯度φは0となり、コリオリ力fも0となる。
  • 赤道上ではコリオリの力の影響は現れない。
  • 赤道上には台風は存在しない(コリオリの力が回転に寄与しない)。

私が「赤道ではコリオリ力が働かない」に違和感を持ってしまった理由は、コリオリ力が、ある2つのベクトルのベクトル積(外積)を使った計算式であることをたまたま知っていたからである。ベクトル積が0になるのは2つのベクトルの方向が並行になる時しかなく、つまり、地球上のごく限られた場所のごく限られたケースでないとコリオリ力が0にならない筈だと思ったからである。
そこで、台風発生のメカニズムについて詳しい訳ではないが、赤道に於いてコリオリ力は具体的にどうなるのかを考察してみることにした。

基礎知識

台風に働くコリオリ力を考える上での基礎知識として、慣性系・非慣性系及び台風が反時計回りになる理由について、以下に述べる。

慣性系・非慣性系

座標系の慣性系と非慣性系の違い、及びこれら座標系の切り分け方について述べる。

慣性系と非慣性系とは

力学(物理学)で使われる座標系として、次の2つがある。
慣性系
慣性系とは、運動方程式(ニュートンの運動の第2法則)
\( \boldsymbol{ F } = m \boldsymbol{ a } \)

(力=質量×加速度)

が成り立つ座標系のことである。
砕いて言えば、静止している、あるいは等速直線運動をしている座標系である。例えば、電車に乗らずに地表に立っている人から見た(観測者)の世界、あるいは一定速度で直進している電車に乗っている観測者の世界である。
なお、運動方程式が成り立つと言うことは、物体に力を加えなければ加速度は発生しなく、加速度が発生しないと言うことは、静止しているものは静止し続け、動いているものは等速で直線運動し続けることを意味する。つまり、慣性の法則(ニュートンの運動の第1法則)が成り立つので、「慣性系」と言う。
非慣性系
非慣性系とは、運動方程式が成り立たない座標系のことである。砕いて言えば、等速直線でない運動(加速有りの運動※1)をしている座標系である。例えば、直進していても速くなったり遅くなったりしている電車に乗っている人から見た(観測者)の世界、あるいは一定速度であってもカーブを走っている電車に乗っている観測者の世界である。
なお、後述の「コリオリ力の計算式」でもう少し具体的に説明するが、非慣性系であっても、ニュートンの運動方程式のF(力)に「見かけの力(慣性力)」※2を組み込めば、「質量×加速度=力」の運動方程式が成り立つ。

慣性系は存在するの?

上記の例では、電車に乗らずに地表に立っている観測者の世界は、慣性系と述べた。でも、地表は慣性系なのと疑問を持つ方がいると思う。なぜなら、地球は自転しているので、静止をしていないし等速直線運動もしていないからである。では、地球の自転の影響を受けない地球の外から地球を眺めている観測者の世界は、地球が静止したまま自転しているように見えるので、観測者は慣性系にいるように思える。でも、地球は太陽の周りを公転しており、この観測者も地球の公転に合わせて移動しているので、非慣性系にいることになる。同様に太陽系の外から太陽系を眺めても、太陽系自体が天の川銀河の中心を周回しているので非慣性系にいることになる。現在の宇宙は、加速膨張をしているのは明らかになっているので、天の川銀河も加速しながらとてつもない速度で運動していると言って良いのだろう。
そうすると、慣性系はどこにも存在しないことになるが、上記で地表に立っている観測者の世界を慣性系と述べた理由は、次のとおりである。
日常のスケールで体験するような電車の運動の場合でも、電車が等速直線運動をしていても自転による見かけの力(遠心力やコリオリ力)を受け、それらの力の大きさは、自転の角速度(単位時間に変化する角度のことで、単位は「rad/s」)の大きさに影響を受ける。ただ、地球はゆっくり回転(24時間掛けて1周)しているので、角速度が非常に小さいことから見かけの力も非常に小さくなる。また、公転等でも同様なことが言える。従って、自転、公転等の加速による見かけの力は無視できる程相対的に小さいので、近似的に慣性系と見なすことができるからである。
その一方で、台風のようにスケールが大きな運動や長時間継続する運動の場合は、自転による見かけの力の影響を無視できなくなり、地表にいる観測者の世界は非慣性系となるが、自転の影響を受けない地球の外から地球を眺めている観測者の世界は近似的に慣性系と見なすことができる。

加速とは速度が変化することであり、速度は「速さ(大きさ)」と「向き」を持つ。従って、加速を言い換えれば、速さが速くなったり遅くなったりすること、あるいは運動の方向が変わることを指す。
日常会話に於いて、速さが遅くなれば「加速」でなく「減速」と表現し、一定速度で曲がっても「加速」と表現しなく、速さが速くなった時だけに「加速」と表現しているが、物理学では速度が変化する運動は全て「加速」と表現する。

止まっている電車が動き出す(電車の速さが速くなっている)と電車の進行方向と逆向きの力を受けていると感じ、動いている電車が止まろうとする(電車の速さが遅くなっている)と進行方向に力を受けている感じ、電車がカーブに入るとカーブの外側に力(遠心力)を受けていると感じる。でも、これらの力は、同乗者の誰かに押されて発生しているものでないので「見かけの力」と言い、「慣性力」とも言う。
なお、本題のコリオリ力も地球の自転により発生する見かけの力(慣性力)である(詳細は後述の「赤道ではコリオリ力が働かないの?」参照)。

台風が反時計回りに回転する理由

隣り合う空気の気圧※3に差が発生すると、押し合う力のバランスが崩れ、気圧の高い方(押す力の強い方)から気圧の低い方(押す力の弱い方)へ空気が移動し、風となる。
台風は低気圧の一種であるが、低気圧とは周囲に比べ気圧の低いところを指すので、低気圧の中心に向かって風が吹く。つまり、低気圧の北側にある空気は南に移動し、南側にある空気は北に移動し、東側にある空気は西に移動し、西側にある空気は東に移動する。
台風を含め低気圧の規模になると、発生する風は中心に向かって直進できなく、北半球であれば反時計回りに中心へと集まる(南半球では時計回り)。その理由は上記でも少し触れたが、地球と一緒に自転している大気は、常に加速(地球と同様に回転)しているので非慣性系であり、風(大気中を運動している空気)には自転による見かけの力(コリオリ力)を受けるからである。この時に発生するコリオリ力は北半球では空気の流れの進行方向に対し右向きの力(図1緑色矢印)となる(南半球では左向きの力になる)。なお、コリオリ力の発生と向きの詳細説明については、後述の「赤道ではコリオリ力が働かないの?」を参照されたし。
そうすると、北半球では直進する筈の空気(図1灰色矢印)が右へ右へと向きが変わってしまい(図1水色矢印)、これにより台風は反時計回りに回転する(図1紺色矢印)。南半球では逆に、直進する筈の空気が左へ左へと向きが変わってしまい、これにより台風は時計回りに回転する。

台風とコリオリ力

ある場所の空気はそれより上のに存在する空気の重さがのし掛かっているので上から押され、下へ移動しようとするも下には地面や空気があるため押し返され、横に移動しようとするも、そこには別の空気があるため押し返され、四方八方で押し合いバランスが取れている。気圧とは、この単位面積当たりの押し合う力であり、ある場所より上にある空気の重さによる圧力と言うこともできる。

ここから本題に入って行く。
コリオリ力がどの方向にどれだけの力が働くかを知るには、コリオリ力の計算式を知らないと話にならないので、まずはコリオリ力の計算式を示し(コリオリ力は自転している地球上の運動方程式を導き出すことにより求まるので、導出に興味のある方は「自転に於ける運動法的式の導出」を参照されたし。)、その計算式を元に赤道のコリオリ力について考察する。

地球は自転しているので(加速度があるので)、地球上では非慣性系であり、運動方程式に見かけの力が加わり、次の方程式になる。
\[ m \boldsymbol{ a }’ = \boldsymbol{ F } + 2m \boldsymbol{ v }’ \times \boldsymbol{ ω } + mω^2 \boldsymbol{ r }’ \]
文字の説明
  • 細字 右矢印 スカラー
  • 太字 右矢印 ベクトル
  • 文字にダッシュ有り 右矢印 非慣性系(地球上)から見た物理量
  • \( m \) 右矢印 物体の質量
  • \( \boldsymbol{ v } \) 右矢印 物体の速度ベクトル
  • \( \boldsymbol{ a } \) 右矢印 物体の加速度ベクトル
  • \( ω \) 右矢印 角速度。回転運動している平面に於いて、動径(回転する半直線のこと)が単位時間当たりに回転する角度のこと。
  • \( \boldsymbol{ ω } \) 右矢印 角速度ベクトル。角速度ωの絶対値を大きさとし、 回転軸方向(回転面が反時計回りに見える方向)を向いたベクトルである。
  • \( \boldsymbol{ r } \) 右矢印 地軸から垂直に物体へ向かう位置ベクトル
  • \( \boldsymbol{ F } \) 右矢印 ニュートンの運動の第2法則上の力ベクトル
  • \( \times \) 右矢印 ベクトル積(外積)の記号
自転に於ける運動方程式の導出

導出過程に於いて微分やベクトルを使用しており、主にベクトルの知識がない方を意識して解説している。そこで導出に入る前に、基礎知識としてベクトルの性質や微分の記法について、以下に纏めておく。

ベクトルの性質
ベクトル積(外積)とスカラー積(内積)の性質を示す。
ベクトル積の性質
ベクトル積(外積)の記号は「×」で表し(例えば、\( \boldsymbol{ a } \)と \( \boldsymbol{ b } \)のベクトル積は「 \( \boldsymbol{ a } \times \boldsymbol{ b } \)」)、外積の計算結果がベクトルになるので「ベクトル積」と言う。
ベクトル積の性質は次のとおりであるが、成り立たないものがあるので注意されたし。
スカラー倍
\(
\boldsymbol{ a } \times ( k \boldsymbol{ b } )
= ( k \boldsymbol{ a } ) \times \boldsymbol{ b }
= k ( \boldsymbol{ a } \times \boldsymbol{ b } )
\)
\(
( k \boldsymbol{ a } ) \times ( l \boldsymbol{ b } )
= ( k l ) ( \boldsymbol{ a } \times \boldsymbol{ b } )
\)
交換法則
\(
\boldsymbol{ a } \times \boldsymbol{ b }
= – \boldsymbol{ b } \times \boldsymbol{ a }
\)
ベクトルの大きさは同じだが、向きが逆になるため成り立たず!
分配法則
\(
( \boldsymbol{ a } + \boldsymbol{ b } ) \times \boldsymbol{ c }
= \boldsymbol{ a } \times \boldsymbol{ c } + \boldsymbol{ b } \times \boldsymbol{ c }
\)
\(
\boldsymbol{ a } \times ( \boldsymbol{ b } + \boldsymbol{ c } )
= \boldsymbol{ a } \times \boldsymbol{ b } + \boldsymbol{ a } \times \boldsymbol{ c }
\)
結合法則
\(
( \boldsymbol{ a } \times \boldsymbol{ b } ) \times \boldsymbol{ c }
\neq \boldsymbol{ a } \times ( \boldsymbol{ b } \times \boldsymbol{ c } )
\)
成り立たず!
三重積
\(
\boldsymbol{ a } \times ( \boldsymbol{ b } \times \boldsymbol{ c } )
= ( \boldsymbol{ a } \cdot \boldsymbol{ c } ) \boldsymbol{ b } – ( \boldsymbol{ a } \cdot \boldsymbol{ b } ) \boldsymbol{ c }
= \boldsymbol{ b } ( \boldsymbol{ a } \cdot \boldsymbol{ c } ) – \boldsymbol{ c } ( \boldsymbol{ a } \cdot \boldsymbol{ b } )
\)
ベクトル積の計算結果はベクトル(また、ベクトルのスカラー倍もベクトル)なので、上式の計算結果もベクトル
スカラー積の性質
スカラー積(内積)の記号は「・」で表し(例えば、\( \boldsymbol{ a } \)と \( \boldsymbol{ b } \)のスカラー積は「 \( \boldsymbol{ a } \cdot \boldsymbol{ b } \)」)、内積の計算結果がスカラーになるので「スカラー積」と言う。スカラー積の性質は次のとおりである。
スカラー倍
\(
\boldsymbol{ a } \cdot ( k \boldsymbol{ b } )
= ( k \boldsymbol{ a } ) \cdot \boldsymbol{ b }
= k ( \boldsymbol{ a } \cdot \boldsymbol{ b } )
\)
\(
( k \boldsymbol{ a } ) \cdot ( l \boldsymbol{ b } )
= ( k l ) ( \boldsymbol{ a } \cdot \boldsymbol{ b } )
\)
交換法則
\(
\boldsymbol{ a } \cdot \boldsymbol{ b }
= \boldsymbol{ b } \cdot \boldsymbol{ a }
\)
分配法則
\(
( \boldsymbol{ a } + \boldsymbol{ b } ) \cdot \boldsymbol{ c }
= \boldsymbol{ a } \cdot \boldsymbol{ c } + \boldsymbol{ b } \cdot \boldsymbol{ c }
\)
\(
\boldsymbol{ a } \cdot ( \boldsymbol{ b } + \boldsymbol{ c } )
= \boldsymbol{ a } \cdot \boldsymbol{ b } + \boldsymbol{ a } \cdot \boldsymbol{ c }
\)
結合法則
\(
( \boldsymbol{ a } \cdot \boldsymbol{ b } ) \cdot \boldsymbol{ c }
= \boldsymbol{ a } \cdot ( \boldsymbol{ b } \cdot \boldsymbol{ c } )
\)
三重積
\(
\boldsymbol{ a } \cdot ( \boldsymbol{ b } \times \boldsymbol{ c } )
= \boldsymbol{ b } \cdot ( \boldsymbol{ c } \times \boldsymbol{ a } )
= \boldsymbol{ c } \cdot ( \boldsymbol{ a } \times \boldsymbol{ b } )
\)
スカラー積の計算結果はスカラーなので、上式の計算結果もスカラー
その他
\(
\boldsymbol{ a } \cdot \boldsymbol{ a }
= | \boldsymbol{ a } | ^ 2
= a ^ 2
\)
\( \boldsymbol{ a } \)の大きさの2乗
ベクトル関数の微分の性質
ベクトル関数に於ける微分の性質は、以下のとおりである。なお、使用する各関数や定数の意味は、次のとおりとする。
  • \( \boldsymbol{ A } \) 、\( \boldsymbol{ B } \) 右矢印 スカラー変数t(時間)のベクトル関数\( \boldsymbol{ A } (t) \) 、\( \boldsymbol{ B } (t) \)のことで、引数\( (t) \)を省略した表現
  • \( f \) 右矢印 スカラー変数t(時間)のスカラー関数\( { f } (t) \)のことで、引数\( (t) \)を省略した表現
  • \( α \) 右矢印 スカラー定数
スカラー定数倍の微分
\(
\require{physics} \dv{ ( α \boldsymbol{ A } ) }{ t }
= α \require{physics} \dv{ \boldsymbol{ A } }{ t }
\)
スカラー関数の様にスカラー定数を微分の外に出せる。
スカラー関数倍の微分
\(
\require{physics} \dv{ ( f \boldsymbol{ A } ) }{ t }
= \require{physics} \dv{ f }{ t } \boldsymbol{ A } + f \require{physics} \dv{ \boldsymbol{ A } }{ t }
\)
スカラー関数の積の微分の公式の様な式が成り立つ。
和・差の微分
\(
\require{physics} \dv{ }{ t } ( \boldsymbol{ A } \pm \boldsymbol{ B } )
= \require{physics} \dv{ \boldsymbol{ A } } { t } \pm \require{physics} \dv{ \boldsymbol{ B } }{ t }
\)
スカラー関数の様に、各関数の微分に対する和・差が成り立つ。
スカラー積の微分
\(
\require{physics} \dv{ }{ t } ( \boldsymbol{ A } \cdot \boldsymbol{ B } )
= \require{physics} \dv{ \boldsymbol{ A } } { t } \cdot \boldsymbol{ B } + \boldsymbol{ A } \cdot \require{physics} \dv{ \boldsymbol{ B } }{ t }
\)
スカラー関数の積の微分の公式の様な式が成り立つ。
ベクトル積の微分
\(
\require{physics} \dv{ }{ t } ( \boldsymbol{ A } \times \boldsymbol{ B } )
= \require{physics} \dv{ \boldsymbol{ A } } { t } \times \boldsymbol{ B } + \boldsymbol{ A } \times \require{physics} \dv{ \boldsymbol{ B } }{ t }
\)
スカラー関数の積の微分の公式の様な式が成り立つが、ベクトル積の順序を入れ替えると符号が変わるので注意!(例えば、\( \require{physics} \dv{ \boldsymbol{ A } } { t } \times \boldsymbol{ B } = – \boldsymbol{ B } \times \require{physics} \dv{ \boldsymbol{ A } } { t } \) )
ニュートンの記法
本記事に於ける時間微分に関しては、基本的にはライプニッツ※4の記法を用いず、ニュートン※4の記法を用いる。
両者の関係は次のとおりである。なお、「\( y \)」を時間\( t \)の関数とする。
ニュートンの記法は、階数の数だけ上部に横並びでドット「・」が付く。

アイザック・ニュートンは、「微分積分学の基本定理」と呼ばれる、微分と積分の計算が逆関係にあることを発見した。また、同時期にゴットフリート・ヴェルヘルム・ライプニッツも「微分積分学の基本定理」を発見しているが、当時は、英国王立協会の実質的な会長であったニュートンの裏工作により王立協会から公正な判断がされず、ライプニッツがニュートンのアイデアを盗んだとされた。その3年後に、ライプニッツは誤解が解消されないまま亡くなっている。しかし、現在では「微分積分学の基本定理」は両者によって独自に発見されたことが認められている。

ここから導出の本題に入る。

前提条件
3次元デカルト座標系の\( S \)系と\( S’ \)系を考える。
\( S \)系は慣性系であり、\( S’ \)系は非慣性系で、\( S \)系に対し並進運動せずに単に反時計回りの回転運動のみをし(回転座標系)、角速度ベクトル\( \boldsymbol {ω} \)で回転しているものとする。また、\( S \)系と\( S’ \)系は次のことが一致しているものとする(図2参照)。
  • \( S \)系の\( z \)軸と\( S’ \)系の\( z’ \)軸は、共に\( S’ \)系の回転軸と一致する(\( \boldsymbol {ω} \)の向きはz’軸の正の方向と一致)。
  • \( S \)系の原点\( O \)と\( S’ \)系の原点\( O’ \)は一致し、回転軸上にある。
慣性系に対する回転座標系

※ 「\( \boldsymbol{ e } \)」について
「\( \boldsymbol{ e } \)」は、単位ベクトル(大きさ1のベクトル)を示す。特に、座標系の各軸の正方向を向いた単位ベクトルを「基本ベクトル」と言う。本記事に於いては、例えば「\( \boldsymbol{ e_x } \)」なら\( S \)系の\( x \)軸の基本ベクトル、「\( \boldsymbol { e_{x’} } \)」なら\( S’ \)系の\( x’ \)軸の基本ベクトルを意味する。
運動方程式の導出
質点の運動を、異なる座標系(\( S \)系と\( S’ \)系)から眺めた時の関係を見て行く。この質点の位置ベクトルを次のとおりとする。
  • \( \boldsymbol{ r } \)  右矢印 \( S \)系から眺めた質点の位置ベクトル(始点は原点\( O \)であり\( O’ \)でもある)。
  • \( \boldsymbol { r }’ \) 右矢印 \( S’ \)系から眺めた質点の位置ベクトル(始点は原点\( O’ \)であり\( O \)でもある)。
\( S \)系であろうと\( S’ \)系であろうと、質点の位置ベクトルは始点の位置(原点\( O = O’ \))が同じなので、
\( \boldsymbol { r } = \boldsymbol { r }’ \) ……
となり、これを基本ベクトルで表すと、
\(
x \boldsymbol { e_x } + y \boldsymbol { e_y } + z \boldsymbol { e_z }
= x’ \boldsymbol { e_{x’} } + y’ \boldsymbol { e_{y’} } + z’ \boldsymbol { e_{z’} }
\) ……
となる。この両辺を時間\( t \)で微分すると、
  • 「ベクトル関数の微分の性質」の「和の微分」により、各項に対して微分。
  • 各項の微分は、「ベクトル関数の微分の性質」の「スカラー関数倍の微分」を利用。
\(
\dot{x} \boldsymbol { e_x } + x \dot { \boldsymbol { e_x } }
+ \dot{y} \boldsymbol { e_y } + y \dot { \boldsymbol { e_y } }
+ \dot{z} \boldsymbol { e_z } + z \dot { \boldsymbol { e_z } }
= \dot{x’} \boldsymbol { e_{x’} } + x’ \dot{ \boldsymbol { e_{x’} } }
+ \dot{y’} \boldsymbol { e_{y’} } + y’ \dot{ \boldsymbol { e_{y’} } }
+ \dot{z’} \boldsymbol { e_{z’} } + z’ \dot{ \boldsymbol { e_{z’} } }
\) ……
となり、基本ベクトルの時間微分に対し、\( \dot{ \boldsymbol { e }’ } \)を使用しない式などにして整理すると、
基本ベクトルの微分
基本ベクトル\( \boldsymbol { e } \)と\( \boldsymbol { e }’ \)の時間微分は次のとおりであり、を代入する。
\( \boldsymbol { e } \)について
\( \boldsymbol { e_x } \) 、 \( \boldsymbol { e_y } \) 、 \( \boldsymbol { e_z } \)は、慣性系の基本ベクトルなので、時間\( t \)の経過に伴い座標軸の向きは変化しない。従って、時間\( t \)で微分すると
\( \dot { \boldsymbol { e_x } } = \dot { \boldsymbol { e_y } } = \dot { \boldsymbol { e_z } } = \boldsymbol { 0 } \) ……
となる。
\( \boldsymbol { e }’ \)について
\( \boldsymbol { e_{x’} } \) 、 \( \boldsymbol { e_{y’} } \) 、 \( \boldsymbol { e_{z’} } \)は、非慣性系(回転座標系)なので、時間\( t \)の経過に伴い座標軸の向きが変化する。従って、時間\( t \)で微分しても\( \boldsymbol { 0 } \)にならない。
回転軸に対し\( \boldsymbol { ω } \)で回転している任意のベクトル\( \boldsymbol { A } \)の時間的変化率(回転している\( \boldsymbol { A } \)の向きの変化率)は、
\(
\require{physics} \dv{ \boldsymbol { A } } {t}
= \dot { \boldsymbol{ A } }
= \boldsymbol{ ω } \times \boldsymbol{ A }
\)
時間的変化率の証明
以下に、\( \boldsymbol { A } \)の時間的変化率(\( \dot { \boldsymbol{ A } } \))が、\( \boldsymbol { ω } \)を用いたベクトル積(\( \boldsymbol { \boldsymbol{ ω } \times \boldsymbol{ A } } \))になることを証明する。
ベクトルは向きと大きさを与えれば決定するので、回転の様子は\( \boldsymbol { A } \)と\( \boldsymbol { ω } \)の始点を一致させて、図3のように描くことができる。
ベクトルの回転

この時、\( \Delta \boldsymbol { A } \)の向きと大きさについて次のことが言える。
向き
時間\( \Delta t \)の間の\( \boldsymbol { A } \)の変化\( \Delta \boldsymbol { A } \)は、図3から明らかであるが、\( \boldsymbol { ω } \)と\( \boldsymbol { A } \)の両方に垂直となる(\( \Delta \boldsymbol { A } \bot \boldsymbol { ω } \)、\( \Delta \boldsymbol { A } \bot \boldsymbol { A } \))。
つまり、\( \Delta \boldsymbol { A } \)は\( \boldsymbol{ ω } \times \boldsymbol{ A } \)の向きと一致している(「ベクトル積の定義」を参照)。
大きさ
\( \boldsymbol { ω } \)と\( \boldsymbol { A } \)の間の角度を\( θ \)とし、\( \boldsymbol { A } \)の\( \boldsymbol { ω } \)に垂直な成分を\( A_{ \bot } \)とすると、\( \Delta \boldsymbol { A } \)の大きさは、
\begin{align}
|\Delta \boldsymbol { A }| &\approx A_{ \bot } |\boldsymbol { ω }| \Delta t \\
&= ωA \sin θ \Delta t
\end{align}
補足
  • \( A_{ \bot } |\boldsymbol { ω }| \)  右矢印 1秒間の回転で移動した弧の長さ
  • \( A_{ \bot } = |\boldsymbol { A }| \sin θ = A \sin θ \)
となる。
つまり、\( ωA \sin θ \)は\( \boldsymbol { \boldsymbol{ ω } \times \boldsymbol{ A } } \)の大きさであり(「ベクトル積の定義」を参照)、よって\( \Delta \boldsymbol { A } \)の大きさは、\( \boldsymbol { \boldsymbol{ ω } \times \boldsymbol{ A } } \)の大きさに\( \Delta t \)を掛けた値にほぼ等しい。
以上から、ベクトル積を用いれば、大きさだけでなく向きを含めて、
\begin{align}
\Delta \boldsymbol { A } \approx \boldsymbol { \boldsymbol{ ω } \times \boldsymbol{ A } } \Delta t
\end{align}
と表すことができ、両辺を\( \Delta t \)で割って、\( \Delta t \to 0 \)の極限をとると、
\(
\require{physics} \dv{ \boldsymbol { A } } {t}
= \displaystyle \lim_{ \Delta t \to 0 } \frac{ \Delta \boldsymbol { A } }{ \Delta t }
= \boldsymbol{ ω } \times \boldsymbol{ A }
\)
となる。

なので、次のことが成り立つ。
\( \dot { \boldsymbol { e_{x’} } } = \boldsymbol{ ω } \times \boldsymbol { e_{x’} } \) 、 \( \dot { \boldsymbol { e_{y’} } } = \boldsymbol{ ω } \times \boldsymbol { e_{y’} } \) 、 \( \dot { \boldsymbol { e_{z’} } } = \boldsymbol{ ω } \times \boldsymbol { e_{z’} } \) ……

\(
\dot{x} \boldsymbol { e_x }
+ \dot{y} \boldsymbol { e_y }
+ \dot{z} \boldsymbol { e_z }
= \dot{x’} \boldsymbol { e_{x’} } + x’ \boldsymbol { ω } \times \boldsymbol { e_{x’} }
+ \dot{y’} \boldsymbol { e_{y’} } + y’ \boldsymbol { ω } \times \boldsymbol { e_{y’} }
+ \dot{z’} \boldsymbol { e_{z’} } + z’ \boldsymbol { ω } \times \boldsymbol { e_{z’} }
\)
となり、ベクトル積内でスカラー関数の\( x’ \)、\( y’ \)、\( z’ \)を移動させると、
「ベクトル積の性質」の「スカラー倍」を利用。
\(
\dot{x} \boldsymbol { e_x }
+ \dot{y} \boldsymbol { e_y }
+ \dot{z} \boldsymbol { e_z }
= \dot{x’} \boldsymbol { e_{x’} } + \boldsymbol { ω } \times x’ \boldsymbol { e_{x’} }
+ \dot{y’} \boldsymbol { e_{y’} } + \boldsymbol { ω } \times y’ \boldsymbol { e_{y’} }
+ \dot{z’} \boldsymbol { e_{z’} } + \boldsymbol { ω } \times z’ \boldsymbol { e_{z’} }
\)
となり、括弧で括り\( \boldsymbol { ω } \)を括弧の外に出すと、
「ベクトル積の性質」の「分配の法則」を利用。
\(
\dot{x} \boldsymbol { e_x }
+ \dot{y} \boldsymbol { e_y }
+ \dot{z} \boldsymbol { e_z }
= \dot{x’} \boldsymbol { e_{x’} } + \dot{y’} \boldsymbol { e_{y’} } + \dot{z’} \boldsymbol { e_{z’} }
+ \boldsymbol { ω } \times ( x’ \boldsymbol { e_{x’} } + y’ \boldsymbol { e_{y’} } + z’ \boldsymbol { e_{z’} } )
\) ……
となる。
ちなみに、は両座標系での位置ベクトルの関係式()を時間微分しているので、両座標系での速度ベクトルの関係式として、次のように表すことができる。
両座標系による質点運動
改めて両座標系による質点の運動を明記しておくが、及びを代入する。
\( S \)系による質点運動
\( S \)系の座標が基準なので、この座標系そのものの運動は見えない。従って、座標系が運動しているか否かに関係なく、質点の運動は、質点の位置ベクトルが
\(
\boldsymbol { r } = x \boldsymbol { e_x } + y \boldsymbol { e_y } + z \boldsymbol { e_z }
\) ……
であれば、次のとおりになる。
なお、この基準では、\( \dot { \boldsymbol { e_x } } = \dot { \boldsymbol { e_y } } = \dot { \boldsymbol { e_z } } = \boldsymbol { 0 } \)となるので、「スカラー関数倍の微分」を行った時に、\( \dot { \boldsymbol { e } } \)が付く項は全て\( \boldsymbol { 0 } \)となる。
  • 質点の速度ベクトル  右矢印 \( \dot { \boldsymbol { r } } = \boldsymbol { v } = \dot { x } \boldsymbol { e_x } + \dot { y } \boldsymbol { e_y } + \dot { z } \boldsymbol { e_z } \) ……
  • 質点の加速度ベクトル 右矢印 \( \ddot { \boldsymbol { r } } = \boldsymbol { a } = \ddot { x } \boldsymbol { e_x } + \ddot { y } \boldsymbol { e_y } + \ddot { z } \boldsymbol { e_z } \) ……
\( S’ \)系による質点運動
\( S’ \)系の座標が基準なので、この座標系そのものの運動は見えない。従って、座標系が運動しているか否かに関係なく、質点の運動は、質点の位置ベクトルが
\(
\boldsymbol { r }’ = x’ \boldsymbol { e_{x’} } + y’ \boldsymbol { e_{y’} } + z’ \boldsymbol { e_{z’} }
\) ……
であれば、次のとおりになる。
なお、この基準では、\( \dot { \boldsymbol { e_{x’} } } = \dot { \boldsymbol { e_{y’} } } = \dot { \boldsymbol { e_{z’} } } = \boldsymbol { 0 } \)となるので、「スカラー関数倍の微分」を行った時に、\( \dot { \boldsymbol { e }’ } \)が付く項は全て\( \boldsymbol { 0 } \)となる。
  • 質点の速度ベクトル  右矢印 \( \dot { \boldsymbol { r }’ } = \boldsymbol { v }’ = \dot { x’ } \boldsymbol { e_{x’} } + \dot { y }’ \boldsymbol { e_{y’} } + \dot { z’ } \boldsymbol { e_{z’} } \) ……
  • 質点の加速度ベクトル 右矢印 \( \ddot { \boldsymbol { r }’ } = \boldsymbol { a’ } = \ddot { x’ } \boldsymbol { e_{x’} } + \ddot { y’ } \boldsymbol { e_{y’} } + \ddot { z’ } \boldsymbol { e_{z’} } \) ……
\(
\boldsymbol { v } = \boldsymbol { v }’ + \boldsymbol { ω } \times \boldsymbol { r }’
\) ……
次に、両座標系での加速度ベクトルの関係式を求めるために、の速度ベクトルの関係式の両辺に対して、更に時間微分する。
解説が煩雑にならないように、を「ベクトル関数の微分の性質」の「和の微分」を利用し次の3つに分けることにして、それぞれに対する微分を解説する。
左辺の微分
「\(
\dot{x} \boldsymbol { e_x }
+ \dot{y} \boldsymbol { e_y }
+ \dot{z} \boldsymbol { e_z }
\)」を微分すると、
1階微分の解説と同様に(の左辺の微分を参照)、各項に対し「スカラー関数倍の微分」を行った上で、を代入する。
\(
\ddot { x } \boldsymbol { e_x } + \ddot { y } \boldsymbol { e_y } + \ddot { z } \boldsymbol { e_z }
\) ……
となる。
右辺の「\( \boldsymbol { ω } \)」が付かない3項の微分
「\(
\dot{x’} \boldsymbol { e_{x’} }
+ \dot{y’} \boldsymbol { e_{y’} }
+ \dot{z’} \boldsymbol { e_{z’} }
\)」を微分すると、
1階微分の解説と同様に(の右辺の微分を参照)、次のことを行う。
  • 各項に対し「スカラー関数倍の微分」を行った上で、を代入することにより\( \dot{ \boldsymbol { e }’ } \)を使用しない式にする。
  • 「ベクトル積の性質」を利用して整理する(括弧で括り\( \boldsymbol { ω } \)を括弧の外に出す)。
\(
\ddot { x’ } \boldsymbol { e_{x’} } + \ddot { y’ } \boldsymbol { e_{y’} } + \ddot { z’ } \boldsymbol { e_{z’} }
+ \boldsymbol { ω } \times ( \dot { x’ } \boldsymbol { e_{x’} } + \dot { y’ } \boldsymbol { e_{y’} } + \dot { z’ } \boldsymbol { e_{z’} } )
\) ……
となる。
右辺の「\( \boldsymbol { ω } \)」が付く項の微分
「\(
\boldsymbol { ω } \times ( x’ \boldsymbol { e_{x’} } + y’ \boldsymbol { e_{y’} } + z’ \boldsymbol { e_{z’} } )
\)」を微分する。
\(
\require{physics} \dv{ }{ t } [ \ \boldsymbol { ω } \times ( x’ \boldsymbol { e_{x’} } + y’ \boldsymbol { e_{y’} } + z’ \boldsymbol { e_{z’} } ) \ ]
\)
「ベクトル関数の微分の性質」の「ベクトル積の微分」を利用。
\(
= \dot { \boldsymbol { ω } } \times ( x’ \boldsymbol { e_{x’} } + y’ \boldsymbol { e_{y’} } + z’ \boldsymbol { e_{z’} } )
+ \boldsymbol { ω } \times \require{physics} \dv{ }{ t } ( x’ \boldsymbol { e_{x’} } + y’ \boldsymbol { e_{y’} } + z’ \boldsymbol { e_{z’} } )
\)
地球は等速円運動をしているので、角速度ベクトル\( \boldsymbol { ω } \)は時間の経過に伴い変化することはなく一定である。従って、「\( \dot { \boldsymbol { ω } } = \boldsymbol { 0 } \)」であり、1項目が消える。
\(
= \boldsymbol { ω } \times \require{physics} \dv{ }{ t } ( x’ \boldsymbol { e_{x’} } + y’ \boldsymbol { e_{y’} } + z’ \boldsymbol { e_{z’} } )
\)
「ベクトル関数の微分の性質」の「スカラー関数倍の微分」を利用。
\(
= \boldsymbol { ω } \times ( \dot{ x’} \boldsymbol { e_{x’} } + x’ \dot{ \boldsymbol { e_{x’} } } + \dot{ y’} \boldsymbol { e_{y’} } + y’ \dot{ \boldsymbol { e_{y’} } } + \dot{ z’} \boldsymbol { e_{z’} }+ z’ \dot{ \boldsymbol { e_{z’} } } )
\)
「ベクトル積の性質」の「分配法則」を利用して、2つの括弧で(\( \boldsymbol { e}’ \)グループと\( \dot{ \boldsymbol { e}’ } \)グループに)分ける。
\(
= \boldsymbol { ω } \times ( \dot{x’} \boldsymbol { e_{x’} } + \dot{y’} \boldsymbol { e_{y’} } + \dot{z’} \boldsymbol { e_{z’} } )
+ \boldsymbol { ω } \times ( x’ \dot{ \boldsymbol { e_{x’} } } + y’ \dot{ \boldsymbol { e_{y’} } } + z’ \dot{ \boldsymbol { e_{z’} } } )
\)
2項目の括弧内(\( \dot{ \boldsymbol { e}’ } \)グループ)に対して、次のことを行う。
  • を代入することにより\( \dot{ \boldsymbol { e }’ } \)を使用しない式にする。
  • 「ベクトル積の性質」を利用して整理する(括弧で括り\( \boldsymbol { ω } \)を括弧の外に出す)。
\(
= \boldsymbol { ω } \times ( \dot{x’} \boldsymbol { e_{x’} } + \dot{y’} \boldsymbol { e_{y’} } + \dot{z’} \boldsymbol { e_{z’} } )
+ \boldsymbol { ω } \times [ \ \boldsymbol { ω } \times ( x’ \boldsymbol { e_{x’} } + y’ \boldsymbol { e_{y’} } + z’ \boldsymbol { e_{z’} } ) \ ]
\) ……
以上により、の両辺に対して時間微分すると、「」であり、
\(
\ddot { x } \boldsymbol { e_x } + \ddot { y } \boldsymbol { e_y } + \ddot { z } \boldsymbol { e_z }
\)
\(
= \ddot { x’ } \boldsymbol { e_{x’} } + \ddot { y’ } \boldsymbol { e_{y’} } + \ddot { z’ } \boldsymbol { e_{z’} }
+ \boldsymbol { ω } \times ( \dot{x’} \boldsymbol { e_{x’} } + \dot{y’} \boldsymbol { e_{y’} } + \dot{z’} \boldsymbol { e_{z’} } )
\)

\(
+ \boldsymbol { ω } \times ( \dot{x’} \boldsymbol { e_{x’} } + \dot{y’} \boldsymbol { e_{y’} } + \dot{z’} \boldsymbol { e_{z’} } )
+ \boldsymbol { ω } \times [ \ \boldsymbol { ω } \times ( x’ \boldsymbol { e_{x’} } + y’ \boldsymbol { e_{y’} } + z’ \boldsymbol { e_{z’} } ) \ ]
\)
となり、更に整理すると
同じベクトルの足し算は、向きは変わらないが大きさが2倍になるので(\( \boldsymbol { a } + \boldsymbol { a } = 2 \boldsymbol { a } \))、同じベクトルの項を1つの項に纏める。
\(
\ddot { x } \boldsymbol { e_x } + \ddot { y } \boldsymbol { e_y } + \ddot { z } \boldsymbol { e_z }
\)
\(
= \ddot { x’ } \boldsymbol { e_{x’} } + \ddot { y’ } \boldsymbol { e_{y’} } + \ddot { z’ } \boldsymbol { e_{z’} }
+ 2 \boldsymbol { ω } \times ( \dot { x’ } \boldsymbol { e_{x’} } + \dot { y’ } \boldsymbol { e_{y’} } + \dot { z’ } \boldsymbol { e_{z’} } )
\)

\(
+ \boldsymbol { ω } \times [ \ \boldsymbol { ω } \times ( x’ \boldsymbol { e_{x’} } + y’ \boldsymbol { e_{y’} } + z’ \boldsymbol { e_{z’} } ) \ ]
\)
となり、を代入すると、
\(
\boldsymbol { a } = \boldsymbol { a }’ + 2 \boldsymbol { ω } \times \boldsymbol { v }’ + \boldsymbol { ω } \times ( \boldsymbol { ω } \times \boldsymbol { r }’ )
\) ……
となり、両座標系で加速度の関係式となる。
次に、ニュートンの運動方程式「\( m \boldsymbol { a } = \boldsymbol { F } \)」にを代入すると
\(
m [ \ \boldsymbol { a }’ + 2 \boldsymbol { ω } \times \boldsymbol { v }’ + \boldsymbol { ω } \times ( \boldsymbol { ω } \times \boldsymbol { r }’ ) \ ] = \boldsymbol { F }
\)
となり、左辺を展開すると
\(
m \boldsymbol { a }’ + 2m \boldsymbol { ω } \times \boldsymbol { v }’ + m \boldsymbol { ω } \times ( \boldsymbol { ω } \times \boldsymbol { r }’ ) = \boldsymbol { F }
\)
となり、\( S’ \)系から眺めた運動方程式は、
\(
m \boldsymbol { a }’ = \boldsymbol { F } \ – \ 2m \boldsymbol { ω } \times \boldsymbol { v }’ \ – \ m \boldsymbol { ω } \times ( \boldsymbol { ω } \times \boldsymbol { r }’ )
\) ……
となる。
は、ニュートンの運動方程式と異なり、右辺の2項目と3項目が追加されていることからも、\( S’ \)系は慣性系でないことが分かる。この2項目と3項目が慣性力(見かけの力)であり、2項目を「コリオリ力」、3項目を「遠心力」と呼ぶ。
最後に、求まった慣性力の式を扱い易い式に変える。
コリオリ力
「\( – \ 2m \boldsymbol { ω } \times \boldsymbol { v }’ \)」だと、マイナスが付くのでプラスの式に直す。
「ベクトル積の性質」で述べたとおり、「交換法則」が成り立たなく、ベクトルの順番を入れ替えると向きが逆になる(符号が反転する)。つまり、マイナスからプラスに反転させるには、ベクトルの順番を入れ替えれば良い。
従ってコリオリ力の計算式は、
\(
\boldsymbol { F_{corr} }’ = 2m \boldsymbol { v }’ \times \boldsymbol { ω }
\) ……
となる。
遠心力
\(
– \ m \boldsymbol { ω } \times ( \boldsymbol { ω } \times \boldsymbol { r }’ )
\)
「ベクトル積の性質」の「三重積」を利用して、ベクトル積を無くしスカラー積の計算式にする。
\(
= – \ m \ [ \ \boldsymbol { ω } ( \boldsymbol { ω } \cdot \boldsymbol { r }’ ) \ – \ \boldsymbol { r }’ ( \boldsymbol { ω } \cdot \boldsymbol { ω } ) \ ]
\)
\(
= \ m \boldsymbol { r }’ ( \boldsymbol { ω } \cdot \boldsymbol { ω } ) \ – \ m \boldsymbol { ω } ( \boldsymbol { ω } \cdot \boldsymbol { r }’ )
\)
  • 1項目  右矢印 「スカラー積の性質」の「その他」( \( \boldsymbol{ a } \cdot \boldsymbol{ a } = a ^ 2 \))を利用。
  • 2項目  右矢印 「スカラー積の性質」の「交換法則」を利用。
\(
= \ m ω ^ 2 \boldsymbol { r }’ \ – \ m ( \boldsymbol { r }’ \cdot \boldsymbol { ω } ) \boldsymbol { ω }
\)
\( \boldsymbol { ω } \)方向の単位ベクトルを\( \boldsymbol { e_ω } \)とすると、\( \boldsymbol { ω } = ω \boldsymbol { e_ω } \)となり、これを代入する。
\(
= \ m ω ^ 2 \boldsymbol { r }’ \ – \ m ( \boldsymbol { r }’ \cdot ω \boldsymbol { e_ω } ) ω \boldsymbol { e_ω }
\)
「スカラー積の性質」の「スカラー倍」を利用。
\(
= \ m ω ^ 2 \boldsymbol { r }’ \ – \ m ω^2 ( \boldsymbol { r }’ \cdot \boldsymbol { e_ω } ) \boldsymbol { e_ω }
\)
\( \boldsymbol { r }’ \cdot \boldsymbol { e_ω } ={r_ω}’ \)を代入する。
補足
\( \boldsymbol { r }’ \)と\( \boldsymbol { e_ω } \)(\( \boldsymbol { ω } \)方向の単位ベクトル)の成す角度を\( \boldsymbol { θ } \)とすると、スカラー積の定義により\( \boldsymbol { r }’ \cdot \boldsymbol { e_ω } = | \boldsymbol { r }’ | | \boldsymbol { e_ω } | \cos θ \)となり、\( | \boldsymbol { e_ω } | = 1 \)なので\( | \boldsymbol { r }’ | \cos θ = r’ \cos θ \)となる。
つまりり\( \boldsymbol { r }’ \cdot \boldsymbol { e_ω } \)は、\( \boldsymbol { r }’ \)に対する\( \boldsymbol { ω } \)軸成分の大きさを意味する。この大きさを\( {r_ω}’ \)と置くと、\( \boldsymbol { r }’ \cdot \boldsymbol { e_ω } = {r_ω}’ \)となる。そうすると、図4紺色ベクトルは\( {r_ω}’ \boldsymbol { e_ω } \)となり、緑色ベクトルは\( r’ – {r_ω}’ \boldsymbol { e_ω } \)となる。

回転軸から質点に向かうベクトル

\(
= \ m ω ^ 2 \boldsymbol { r }’ \ – \ m ω^2 \boldsymbol { {r_ω}’ } \boldsymbol { e_ω }
\)
\(
= \ m ω ^ 2 ( \boldsymbol { r }’ \ – \ \boldsymbol { {r_ω}’ } \boldsymbol { e_ω } )
\)
\( \boldsymbol { r }’ – \boldsymbol { {r_ω}’ } \boldsymbol { e_ω } = \boldsymbol { \xi }’ \)とし、代入する。
補足
\( \boldsymbol { \xi }’ \)(図4緑色ベクトル)を地球に当てはめると、地上にある質点と垂直にある地軸の位置を原点に取り、原点から質点に向かうベクトルを意味する。
なお、\( \boldsymbol { \xi } \)の読み方は、「クサイ」や「クシー」である。

\(
= \ m ω ^ 2 \boldsymbol { \xi }’
\)
となり、従って遠心力の計算式は、
\(
\boldsymbol { F_{cen} }’ = \ m ω ^ 2 \boldsymbol { \xi }’
\) ……
となる。
以上を纏めると、自転している地球上(非慣性系の\( S’ \)系)の運動方程式は、を代入することにより、次のとおりとなる。
\begin{align}
m \boldsymbol { a }’ &= \boldsymbol { F } + \boldsymbol { F_{corr} }’ + \boldsymbol { F_{cen} }’ \\
&= \boldsymbol { F } + 2m \boldsymbol { v }’ \times \boldsymbol { ω } + \ m ω ^ 2 \boldsymbol { \xi }’
\end{align}
注意(\( \boldsymbol { r }’ \)について)
本導出の解説では、回転軸上にある原点\( O’ \)を始点とした質点の位置ベクトルを\( \boldsymbol { r }’ \)と定義したので、地軸から垂直に質点に向かうベクトルは\( \boldsymbol { r }’ \)を使用せず\( \boldsymbol { \xi }’ \)を使用した。一方で、導出した運動方程式には\( \boldsymbol { r }’ \)が消え、本導出の解説以外の本記事に於いては、この\( \boldsymbol { r }’ \)を使用することがない。このことから、本導出の解説以外では、地軸から垂直に質点に向かうベクトルを改めて\( \boldsymbol { r }’ \)と定義し、遠心力の計算式は\( m ω ^ 2 \boldsymbol { r }’ \)となっている。従って、本導出の解説内の\( \boldsymbol { r }’ \)と本導出の解説以外の\( \boldsymbol { r }’ \)は別物なので注意されたし。
ニュートンの運動の第2法則と違い、右辺は第1項の\( \boldsymbol{ F } \)以外に2つの項が含むことから、自転している地球は非慣性であることが分かる。言い方を換えれば、地球は非慣性系であるが、ニュートンの運動方程式の\( \boldsymbol{ F } \)に見かけの力である慣性力(右辺の第2項と第3項)を組み込むことにより、上記の運動方程式が成り立っており、これら2つの慣性力の名称は次のとおりである。
  • \( 2m \boldsymbol{ v }’ \times \boldsymbol{ ω } = \boldsymbol{ F_{corr} }’ \)  右矢印 コリオリ力
  • \( mω^2 \boldsymbol{ r }’ = \boldsymbol{ F_{cen} }’ \) 右矢印 遠心力
ちなみに、コリオリ力の計算式「\( 2m \boldsymbol{ v }’ \times \boldsymbol{ ω } \)」の意味は、\( \boldsymbol{ v }’ \)と\( \boldsymbol{ ω } \)のベクトル積(外積)で求まるベクトルに対し、スカラー(\( 2 \)と\( m \)を掛けた値)倍したベクトルである。
これらの慣性力について、計算式等から言える性質は次のとおりである。
コリオリ力(\( 2m \boldsymbol{ v }’ \times \boldsymbol{ ω } \))
  • 大きさは、次のものに比例する。
    • 物体の質量\( m \)
    • 物体の速度ベクトル\( \boldsymbol{ v }’ \)の向きが一定であれば、速度ベクトルの大きさ
    • 回転座標系の角速度ベクトル\( \boldsymbol{ ω } \)の向きが一定であれば、角速度ベクトルの大きさ(なお、本記事での回転座標系は地球なので、角速度ベクトルの向きも大きさも変化しない。)
  • 向きは、ベクトル積(\( \boldsymbol{ v }’ \times \boldsymbol{ ω } \))の向きとなる。
  • 地球の角速度ベクトル\( \boldsymbol{ ω } \)の大きさは非常に小さいので、コリオリ力は非常に弱い力である。
  • 計算式に速度ベクトル\( \boldsymbol{ v }’ \)が存在すると言うことは、コリオリ力は非慣性系の地球上で運動している物体に対して発生することが分かる。逆に、地球上で静止している物体は、「 \( \boldsymbol{ v }’ = \boldsymbol{ 0 } \)」なので、コリオリ力が発生しないことになる。なお、大気も地球と一緒に自転しているので、大気内で運動する台風に対してコリオリ力が発生することになる。
遠心力(\( mω^2 \boldsymbol{ r }’ \))
  • 大きさは、次のものに比例する。
    • 物体の質量\( m \)
    • 地軸から物体までの距離\( r’ \)(赤道に近い程、距離は長くなるので遠心力は強くなる。)
    • 角速度ベクトル\( \boldsymbol{ ω } \)の大きさの2乗
  • コリオリ力と違い、非慣性系(地球上)で静止している物体でも常に発生
  • 向きは、地軸から遠ざかる方向(\( \boldsymbol{ r }’ \)の向き)
  • 非常に小さい角速度ベクトル\( \boldsymbol{ ω } \)の大きさの2乗に比例するので、非常に弱い力である。
  • 両極は地軸から物体までの距離\( r’ \)が0なので、遠心力が発生しない。

なお、重力とは、地球の中心に向かう万有引力と、地軸から垂直に遠ざかろとする遠心力の合力である。従って、両極と赤道以外の重力は、地球の中心に向かない(図5参照)。

引力と重力の関係

赤道のコリオリ力

本題に入る前に、コリオリ力の計算式にはベクトル積が存在することから、赤道のコリオリ力を考える上でベクトル積の理解は必須なので、まずはベクトル積の定義を述べておく。

ここから、赤道のコリオリ力の本題に入る。
まず、物体が東西南北の4方位に運動した時のコリオリ力を考えることにする。本記事では、赤道のコリオリ力について考察するので、北緯0度だけを考えれば良い。しかし、多少回りくどい解説になるかもしれないが、折角考察するのだから赤道のような極端な緯度だけを理解するのでなく、汎用性を持たせるために北緯の中緯度当たりを調べ、緯度との関係を明らかにした上で赤道に当てはめて考えることにする。その上で、赤道に関しては、4方位だけでなく、水平方向の全方位の運動に対し、コリオリ力がどのように働くかを考察する。
なお、\( \boldsymbol { ω } \)方向の単位ベクトルを\( \boldsymbol { e_ω } \)とすると、\( \boldsymbol { ω } = ω \boldsymbol { e_ω } \)となることから、以後コリオリ力を
\(
\boldsymbol{ F_{corr} }’ = 2mω \boldsymbol{ v }’ \times \boldsymbol{ e_ω }
\)
と表すことにする。

4方位に於ける中緯度とコリオリ力の関係

中緯度当たりの例として、図7のように北緯60°に居る人が、4方位に運動する時のコリオリ力を考えて見る。
北緯60°に於ける各角度

東への運動
西から東へ速度\( \boldsymbol{ v }’ \)で運動した場合である。
向き
右ネジを\( \boldsymbol{ v }’ \)から\( \boldsymbol{ e_ω } \)へ回した時の進む方向なので、南(進行方向の右)向きの仰角30°(90°- 北緯60°)であり、地軸から遠ざかる方向、つまり遠心力と同じ向きとなる。
なお、東への運動では、北緯何度であろうとコリオリ力は遠心力と同じ向きに働く。
大きさ
\( \boldsymbol{ v }’ \)と\( \boldsymbol{ e_ω } \)の成す角度は90°である。従って、\(2mω \boldsymbol{ v }’ \times \boldsymbol{ e_ω } \)の大きさは、\( 2mω | \boldsymbol{ v }’ | | \boldsymbol{ e_ω }| \sin 90^\circ \)\( = 2mωv’ \)となる(図8緑色ベクトル参照)。
なお、\( \sin 90^\circ \)と言うことは、全方位の中で、大きさが最大になる向きの運動をしていることになるが、この時の水平成分の大きさは、\( 2mωv’ \cos ( 90^\circ – 北緯60^\circ ) \)\( = 2mωv’ \sin (北緯60^\circ ) \)\( = 2mωv’ \times 0.866 \)となる(図8紫色ベクトル参照)。
進行方向の東側から見た図

西への運動
東から西へ速度\( \boldsymbol{ v }’ \)で運動した場合である。
向き
右ネジを\( \boldsymbol{ v }’ \)から\( \boldsymbol{ e_ω } \)へ回した時の進む方向なので、北(進行方向の右)向きの俯角30°(90°- 北緯60°)であり、地軸に近づく方向、つまり遠心力と逆向きとなる。
なお、西への運動では、北緯何度であろうとコリオリ力は遠心力と逆向きに働く。
大きさ
\( \boldsymbol{ v }’ \)と\( \boldsymbol{ e_ω } \)の成す角度は90°である。従って、\(2mω \boldsymbol{ v }’ \times \boldsymbol{ e_ω } \)の大きさは、\( 2mω | \boldsymbol{ v }’ | | \boldsymbol{ e_ω }| \sin 90^\circ \)\( = 2mωv’ \)となる(図9緑色ベクトル参照)。
なお、\( \sin 90^\circ \)と言うことは、全方位の中で、大きさが最大になる向きの運動をしていることになるが、この時の水平成分の大きさは、\( 2mωv’ \cos ( 90^\circ – 北緯60^\circ ) \)\( = 2mωv’ \sin (北緯60^\circ ) \)\( = 2mωv’ \times 0.866 \)となる(図9紫色ベクトル参照)。
進行方向の東側から見た図

北への運動
南から北へ速度\( \boldsymbol{ v }’ \)で運動した場合である。
向き
右ネジを\( \boldsymbol{ v }’ \)から\( \boldsymbol{ e_ω } \)へ回した時の進む方向なので、東(進行方向の右)向きとなり、仰角0°(地表に水平)となる。
なお、北への運動では、北緯何度であろうとコリオリ力は地表と水平に働く。
大きさ
\( \boldsymbol{ v }’ \)と\( \boldsymbol{ e_ω } \)の成す角度は北緯と同じの60°である(図7の北側地表と\( \boldsymbol{ e_ω } \)の成す角度を参照)。従って、\(2mω \boldsymbol{ v }’ \times \boldsymbol{ e_ω } \)の大きさは、\( 2mω | \boldsymbol{ v }’ | | \boldsymbol{ e_ω }| \sin (北緯60^\circ) \)\( = 2mωv’ \times 0.866 \)となる(図10緑色ベクトル参照)。
進行方向の北側から見た図

南への運動
北から南へ速度\( \boldsymbol{ v }’ \)で運動した場合である。
向き
右ネジを\( \boldsymbol{ v }’ \)から\( \boldsymbol{ e_ω } \)へ回した時の進む方向なので、西(進行方向の右)向きとなり、仰角0°(地表に水平)となる。
なお、南への運動では、北緯何度であろうとコリオリ力は地表と水平に働く。
大きさ
\( \boldsymbol{ v }’ \)と\( \boldsymbol{ e_ω } \)の成す角度は120°である(図7の南側地表と\( \boldsymbol{ e_ω } \)の成す角度を参照)。従って、\(2mω \boldsymbol{ v }’ \times \boldsymbol{ e_ω } \)の大きさは、\( 2mω | \boldsymbol{ v }’ | | \boldsymbol{ e_ω }| \sin 120^\circ \)\( = 2mωv’ \times 0.866 \)となる(図11緑色ベクトル参照)。
なお、この\( \sin 120^\circ \)を北緯で表すと\( \sin ( 180^\circ – 北緯60^\circ) \)であり、つまり\( \sin ( 北緯60^\circ) \)となる。
進行方向の南側から見た図

4方位に於ける北緯とコリオリ力の関係

上記の北緯60°とコリオリ力の関係から、北緯60°に限定しなくても、4方位に於ける全北緯とコリオリ力の関係が分かり、整理すると以下のとおりである。
東への運動
向き
仰角「90°ー北緯」の南(進行方向の右)向き。
遠心力と同じ向き。
大きさ
\( 2mωv’ \)
水平成分の大きさ:\( 2mωv’ \sin (北緯) \)
西への運動
向き
俯角「90°ー北緯」の北(進行方向の右)向き。
遠心力と逆向き。
大きさ
\( 2mωv’ \)
水平成分の大きさ:\( 2mωv’ \sin (北緯) \)
北への運動
向き
水平の東(進行方向の右)向き。
大きさ
\( 2mωv’ \sin (北緯) \)
南への運動
向き
水平の西(進行方向の右)向き。
大きさ
\( 2mωv’ \sin (北緯) \)

北緯0°(赤道)とコリオリ力の関係

以下に、赤道に於ける東西南北の4方位の運動に対するコリオリ力の計算式と水平方向の全方位の運動に対するコリオリ力の変移を考察する。
4方位
上記の「4方位に於ける北緯とコリオリ力の関係」結果を元に、北緯0°(赤道)を当てはめ4方位のコリオリ力の具体値を示す。
東への運動
向き
仰角「90°ー0°」の南(進行方向の右)向き 右矢印 上向きの鉛直方向
大きさ
\( 2mωv’ \)〔水平成分\( 2mωv’ \sin 0^\circ \)〕 右矢印  \( 2mωv’ \)〔水平成分0〕
西への運動
向き
仰角「90°ー0°」の北(進行方向の右)向き 右矢印 下向きの鉛直方向
大きさ
\( 2mωv’ \)〔水平成分\( 2mωv’ \sin 0^\circ \)〕 右矢印  \( 2mωv’ \)〔水平成分0〕
北への運動
向き
水平の東(進行方向の右)向き 右矢印 大きさ0なので向き無し
大きさ
\( 2mωv’ \sin 0^\circ \) 右矢印  0
南への運動
向き
水平の西(進行方向の右)向き 右矢印 大きさ0なので向き無し
大きさ
\( 2mωv’ \sin 0^\circ \) 右矢印  0
全方位
水平方向の全方位の運動に対して、コリオリ力がどのように変移するかを示す。
なお、ここでは、方位を方位角で表すことにする。つまり、北が0°(360°)となり、時計回りに、東が90°、南が180°、西が270°となる。
向き
赤道に於ける地表の水平面は地軸と平行であることから、ベクトル積(\( \boldsymbol{ v }’ \times \boldsymbol{ e_ω } \))の向き、つまりコリオリ力の向きは、どの方位に運動しようと次の2つのどちらかになる。
方位角0°~180°(南北で分けた場合の東側)の運動
コリオリ力の向き 右矢印 上向きの鉛直方向(水平成分は0)
方位角180°~360°(南北で分けた場合の西側)の運動
コリオリ力の向き 右矢印 下向きの鉛直方向(水平成分は0)
大きさ
コリオリ力の大きさは\( 2mω | \boldsymbol{ v }’ \times \boldsymbol{ e_ω }| \)\( =2mω | \boldsymbol{ v }’ | | \boldsymbol{ e_ω }| \sin θ \)であり、赤道に於いては、θの値(\( \boldsymbol{ v }’ \)と\( \boldsymbol{ e }’ \)の成す角度)が0°~180°の範囲で変移することから、\( \sin θ \)の値は0~1の範囲で変移する。従って、コリオリ力の大きさは、最小0~最大\( 2mωv’ \)の範囲で変移することになる。
\( \sin θ \)の値は、物体の運動の向きが方位角90°(東)又は方位角270°(西)で最大の1であり、方位角0°(北)又は方位角180°(南)に近づくにつれて減少して行き、方位角0°又は180°で0となる。従って、コリオリ力の大きさも同様で、物体の運動の向きが方位角90°(東)又は方位角270°(西)で最大の2mωv’であり、方位角0°(北)又は方位角180°(南)に近づくにつれて減少して行き、方位角0°又は180°で0となる。
以上から、結論は次のとおりである。
赤道では、極限られた方位(真北or真南)の運動に対しては確かにコリオリ力が働かない(発生しない)が、それ以外の方位ではコリオリ力が働く。但し、どの方位であっても、鉛直方向に働くので水平成分の力は0であり、発生するコリオリ力は台風誕生の要因として全く貢献できない。
DoctorXのお悩み相談室
ドクターX

次の方どうぞ。

アッコ

入らせてもらうで~。
和田アキ子と言いますわ。「アッコ」と呼んでええで~。
よろしゅう頼んます。

ドクターX

アッコさん。どうされました?

アッコ

ウチな、台風が近づくだけで、片頭痛がすんねん。

ドクターX

あぁ、それね、台風頭痛と言って気象病の一種ですね。
極僅かな気圧の変化でも自律神経が乱れ、頭痛などに繋がるんです。
敏感な方に起こる症状なので、心配いりませんよ。

はい、次の方。

アッコ

あのな~、先生、まだ相談があんねん。

ドクターX

え~、まだあるの?

アッコ

ウチが物を落とすと、地球の中心に落ちて行かんとって、少しずれて落ちていくように見えんねん。
その状況を見てまうと、めまいが起こり、体調不良に陥んねん。

ドクターX

それは、遠心力のせいだから、アッコさんだけに起きている訳じゃないのよ。
日本に住んでいる以上は諦めなさい。

アッコ

海外に移住すれば何とかなりまっか?

ドクターX

そうね、遠心力が発生しない地域となると、近場では北極...
でも、今は冬真っ最中だから、ちょっと遠くなるけど南極はどう?

アッコ

ウチ、冷え性やから、どっちも嫌でっせ。
どうせ移住するなら、ぬくいところがええねん。

ドクターX

わがままな方ね。
その男勝りの体格なら、体力に自身がありそうね?

アッコ

自身ありまんがな。

ドクターX

そう言うことなら...
ケニア、コンゴ、ソマリアなどのアフリカとか、エクアドルやブラジルの南米など色々あるわよ。
アッコさんのようなわがままな方は、モルディブの水上コテージなんかどうかしら?

アッコ

これらの国では、なんや、あの~「温泉力」ちゅうもんが働かないんでっか?

ドクターX

働くけど、遠心力の方向は引力と同じだから、重力の強さが変わるだけで、ずれることがないのよ。

アッコ

さよか...せやけど...
例え、ずれることがなくなっても、結局「温泉力」のせいで重力の強さが変わってしまえば、自律神経が乱れ体調不良を引き起こさないか心配やわ!

ドクターX

しょうがないわね。
「DoctorX」の名にかけて、ベストな治療方法を見つけてあげるから、ちょっと待ってなさい。

アッコ

「失敗せぇへん先生」に、こないに親身になって頂いて痛み入りますわ。

ドクターX

今から、高度な計算するから静かにしてもらえるかしら?

アッコ

御意!

ドクターX

え~と、遠心力とコリオリ力が相殺される走りをすれば良いから...
患者は西側に走りさえすれば良い筈ね。
でも、名医である私は、患者の肉体的負担も考えて、最も負担の少ない真西を選択すべきだわ。

そんでもって、「遠心力=コリオリ力」の方程式は、「\( mω^2r’ = 2mv’ω \)」となるわね。
そこから、\( v’ \)を求めると...
\( v’ = ωr’ \div 2 \) となり、御茶の子さいさいよ。

ここで、\( ω \)と\( r’ \)の値は...
\( r’ \)は赤道半径の\( 6.38 \times 10^6 \)[m](6380km)になるわね。
角速度\( ω \)の大きさとなると...
地球は24時間で1周するから、
\( 2π \)[rad]\( \div (24 \times 60 \times 60) \)[s]\( \fallingdotseq 7.3 \times 10^{-5} \)[rad/s] と、スラスラ求まる私の才能が恐いわ。

後は、これらの値を\( v’ \)の式に代入し、こんな計算はちょちょいのちょいで、
\( v’ = 232.87 \)[m/s]となり、「DoctorX」にかかれば、屁の河童と。

ドクターX

ほ~ら治療方法が、もう見つかったわよ!
モルディブに移住したら、秒速232mで真西に突っ走れば良いだけよ。
アッコさん、さっき「体力には自信ある」と言ったわよね。楽勝でしょう。

アッコ

それって、時速何キロでっか?

ドクターX

え~と、時速838キロよ。

アッコ

......
そや、ウチには40年続いとる「アッコにおまかせ」があるんやった。
すぐに降板して海外に移住できまへんのや。
もう少し日本で我慢してみますわ。

健康が一番やさけ、先生も気晴らしに温泉にでも入って「温泉力」を高めなあかんで~。
ほな、さいなら。

ドクターX

は~い、次の方どうぞ~