改正空家対策特別措置法の解説

西暦2015年5月26日から空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、「空家対策特別措置法」と言う。)が全面施行された。これにより、治安や防犯上、著しく問題のある空家に対し、市町村が撤去や修繕の命令や強制撤去等の措置を行えるようになり、本解説はそれに伴い作成したものである。

ただ、この法律(現行法)に於ける行政の対応には限界があり、施行後も空き家増加に歯止めが掛からない状況から、西暦2023年6月14日に現行法を一部改正する法律(以下、「改正空家対策特別措置法」と言う。)が公布され、公布から6ヶ月以内に施行されることになったため、その改正点を最終セクションに追加解説する。

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背景

現在、住宅の供給過剰と人口減少により、空家が急激に増加し続けている。

総務省によると、西暦2013年10月時点で、総住宅数6,063万戸に対し、空家数は820万戸(賃貸住宅、別荘及び売却用を除くと、放置された空家は318万戸)で、空家率は13.5%である(ちなみに石川県は14.8%)。空家数は20年前の1.8倍と急激に増えている。

また、野村総研によると、このままで行くと2040年には空家率がなんと43%になると予想している。2軒に約1軒は空家になった状態を想定すると、町自体が機能するのか心配になる。

空家対策特別措置法が施行された背景は、増え続けている空家が適切に管理されないと、衛生、防災上の問題が発生し、また景観の悪化等も懸念されることから、地域住民の保護、生活環境の保全及び空家活用の対策が必要になったからである。

措置内容

全面施行により、空家等※1の中で著しく有害となる恐れのある建築物に対し、市町村が「特定空家等※2」に認定することにより、改善等のための措置を行えることになった。これにより、所有者等に対し自主的な撤去、売却及び有効利用を促す狙いである。

特定空家等に対する措置として、次のものがある。

  1. 特定空家等か否かの判断をするための立入調査。空家所有者等が立入調査を拒めば、20万円以下の過料が科せられる。

    青色の下矢印
  2. 特定空家等の所有者等への助言又は指導

    立入調査の結果、管理不全な状態である、又はおそれがあると判断された場合は、所有者等に対し、改善するように助言又は指導が行われる。

    助言又は指導に対し改善が見られなければ勧告へ。

    なお、この段階で、行政に居住や管理の実績を示し、空家等でないと認めさせることができれば、措置を受けなくてすむ。

    青色の下矢印
  3. 特定空家等の所有者等への勧告

    住宅用地に関しては、現在固定資産税及び都市計画税に於ける固定資産税評価額の軽減措置※3があるが、本勧告を受けると軽減措置がなくなる。

    勧告に伴い猶予期限が与えられるので、期限内に改善されれば軽減措置を受けられるが、改善されなければ命令へ。

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  4. 特定空家等の所有者等への命令

    命令に従わなければ、50万円以下の科料が科せられ、撤去等の行政代執行へ。

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  5. 特定空家等への行政代執行(行政上の強制執行)

    空家が強制撤去され、その解体費用が請求される。

他国との比較

他の先進国も日本のように空家率が増え社会問題になっているかと言うと、他国の空家率は、例えば英国が3~4%、ドイツが1%に過ぎなく、日本固有の問題である。その原因は、新築住宅の造り過ぎにある。流通する住宅を他の先進国と比較すると、欧米では中古住宅が70%~80%を占め、新築が一部に過ぎないのに対し、日本では中古住宅は10%台に過ぎず、新築住宅が大半である。この実態が示すとおり、日本は他の先進国に比べ、異常と思える程の新築住宅を造り続けていることが分かる。

日本が新興国のような人口増加が期待できるのであれば、これまでのように新築住宅を造っていても良いだろうが、年々人口が減るのは明らかな日本では、新築住宅を造れば造るほど空家が増加することになる。

他の先進国が、新築住宅の割合が低い理由の1つは、総住宅数を管理していることが挙げられる。長期的な計画で住宅総数を管理することにより、新たに必要になる新築住宅数を予想し、税制や金融面等でコントロールしているから、空家率を低く抑えられている。

所見

市町村は所有者の意向に関係なく、強制的に住宅を解体できる行政代執行が可能となり、かつ解体費も所有者に請求できるようになった。しかし、これで特定空家等がスムーズに減っていくとは思えない。と言うのも所有者は好き好んで特定空家等の認定を受けるような酷い状態にしている筈もなく、自主的に解体等の改善を行えない立場の人が多いと思われる。市町村も強制的に解体したとしても費用を所有者から回収できそうもなければ、行政代執行に対し慎重に成らざるを得ないと思われる。

また、現在日本では、新築住宅の供給過剰と人口減少により、空家が急激に増加し続けている。一方、施行された空家対策特別措置法は、1つの対策となるが、著しく問題のある一部の空家に対する対策に過ぎなく、800万戸を超える空家の対策となっていないので、更に空家が増え続けるのは明らかである。

政府が他の先進国のように住宅戸数をコントロールすることに違和感もあるが、今回施行された空家対策特別措置法だけでは空家問題は解決しない以上、日本も長期的な計画で住宅総数をコントロールするなど、中古住宅市場が活性化する方向に向かうような抜本的な対策を取らないと、近い将来「向こう三軒両隣」と親しくしようとしても、内3軒が空家の状態に成りかねない。

改正点

以下に、改正空家対策特別措置法に於ける現行法(空家対策特別措置法)からの改正点について解説する。

改正の背景

居住目的のない空家※4の件数は、2018年では349万戸であり、2030年では470万戸と予想されており、2015年の空家対策特別措置法(現行法)が施行された後も年々増加している。現行法のままでは今後も歯止めが掛からない状況である。

現行法は緊急性を鑑みて特定空家等への対応を中心に規定しているが、特定空家等まで陥ってしまうと増加し続ける空家への対応にも限界がある。そこで、特定空家等になる前に予防的措置が講じられるように、現行法の一部が改正された。

改正の概要

改正のポイントは特定空家等になる前の段階から対応するもので、次の3本を柱にしている。

  • 活用拡大 右矢印 空家等が発生したら、空家等の活用を勧める。
  • 管理の確保 右矢印 特定空家等に陥らないように、空家等の悪化の防止策として管理の確保を勧める。
  • 特定空家等の除去等 右矢印 特定空家等の除去等が円滑に行えるように、特定空家等への対応を強化する。

改正の3本柱に於ける関係図

また、空家対策の必要性の強まりに伴い、空家等の所有者等の責務も強化され、現行法の適性な管理努力義務[現行法3条]に加え、国・自治体の施策に協力する努力義務[改正法5条]も追加された。この趣旨は、空家等が所有者の個人財産であるが、一方で活用されず管理状態が悪化することなどにより、地域の公共的な問題を生じることに鑑みてのことである。

改正(3本柱)の具体内容

以下に、3本柱である「活用拡大」、「管理の確保」及び「特定空家等の駆除等」に於ける具体的な内容について述べる。

活用拡大

空家等の活用拡大として、次の3点がある。

空家等活用促進区域[改正法7条3項,4項]

市町村が空家等を重点的に活用するためのエリアを定めた上で、そのエリア内で規制の合理化・円滑化をできるようにするために、空家等の用途変更や建替え等を促進する「空家等活用促進区域」を新たに設けることができるようになった。

市町村はこの区域内の空家等活用指針を定め、市町村長から所有者等に対し指針に沿った空家等活用を要請できる。

空家等活用促進区内で具体的に講じることができる規制の合理化・円滑化の措置は次のとおり。

接道規制の合理化[改正法7条5項,6項,9項、17条1項]

現行の建築基準法では、基本的には前面道路の幅員が4m以上でないと建替え・改築等ができない。例外として、個別に特定行政庁※5の許可等を受ければ建替え等が可能であるが、許可等を受けられるかどうかの予見可能性が低い。そのため、これらのことは空家活用上のネックになっている。

そこで改正法では、前面道路の幅員が4m未満であっても、安全確保策を前提に、建替え・改築等を特例認定できるようになった。

用途規制の合理化[改正法7条5項,9項,10項、第17条2項]

現行の建築基準法では、用途地域に応じ建築できる建築物に制限が掛かっている。例外として、個別に特定行政庁の許可を受ければ、制限された用途以外の用途への変更が可能であるが、許可を受けられるかどうかの予見可能性が低い。そのため、これらのことは空家活用上のネックになっている。

そこで改正法では、各用途地域で制限された用途でも、指針に定めた用途への変更を特例許可できるようになった。

市街化調整区域内の用途変更[改正法7条8項、18条1項]

現行の都市計画法では、市街化調整区域内で建築物の用途変更を行う場合は開発許可権者である都道府県知事の許可が必要であるが、都道府県によっては、この許可を抑制的に運用しているケースもあり、空家活用上のネックになっている。

そこで、改正法では、用途変更許可の際、指針に沿った空家活用が進むよう知事が配慮することになった。

支援法人制度 [改正法第23条~第28条]

「空家等管理活用支援法人」が創設された。市町村が、空家等の活用や管理に積極的に取り組むNPO法人、社団法人等を空家等管理活用支援法人に指定し、この支援法人が空家等の管理活用の支援を行う。

支援には次のようなものがある。

市町村に対して
  • 空家等の財産管理人の選任請求や、空家等対策計画の策定等に係る提案
空家等の所有者等・活用希望者に対して
  • 所有者等・活用希望者への情報の提供や相談
  • 所有者等からの委託に基づく空家等の活用や管理
  • 市町村からの委託に基づく所有者等の探索
  • 空家等の活用又は管理に関する普及啓発

etc.

所有者不在の空家等の処分

所有者不在の空家等に対して、所有者に代わって処分を行う財産管理人の選任を市町村が裁判所に請求し、この財産管理人が空家等を処分できることになった(詳細は、後述の「財産管理人による空家等の管理・処分」を参照されたし)。

管理の確保

現行法では特定空家等になって初めて所有者に助言又は指導、勧告、命令を行えるが、改正法では特定空家等になることを待つことなく管理不全空家等(適切な管理が行われていないために、そのまま放置すれば特定空家等になるおそれのある空家等)に対して、次の管理の確保を図ることが可能となった。

特定空家化の未然防止

所有者等が空家等を適切に管理できるように国が管理指針を定め[改正法6条2項3号]、その指針に沿って市町村は管理不全空家等の所有者等に対して、特定空家等となることを防止するために必要な措置を取るように指導できるようになった[改正法13条1項]

それでも状態が改善されず特定空家等になる恐れが高い場合は、修繕や伐採など具体的な措置について勧告できるようになった[改正法13条2項]。なお、勧告を受けた管理不全空家等は、現行法の特定空家等の勧告と同様に住宅用地の軽減措置※3がなくなる。

所有者等把握の円滑化[改正法10条3項]

これまで市町村は所有者等の探索を行う時に、不動産登記簿情報、固定資産税情報、又は戸籍情報を活用していたが、これらの情報だけで所有者等を特定できないこともあった。そこで、改正法では空家等に設置してある工作物民間設置事業者に対して、市町村が所有者等情報の提供要請をできるようになった。

管理不全建物管理人の選任[改正法14条]

所有者に代わって建物管理を行う「管理不全建物管理人」の選任を市町村が裁判所に請求できるようになった(詳細は、後述の「財産管理人による空家等の管理・処分」を参照されたし)。

特定空家等の駆除等

改正法では特定空家等になったものに対しても、次のとおり除却などの一層の促進を図るために市町村の権限を強化などをすることになった。

状態の把握[改正法9条2項]

現行法では特定空家等の立入り調査権が認められているものの、報告徴収権が認められていなかったために、特定空家等の管理状況等の把握が困難な場合があった。そこで改正法では、特定空家等の所有者等に対する報告徴収権を市町村に付与することになり、特定空家等への勧告・命令等を円滑に行うことが可能となった。

代執行の円滑化

次のとおり緊急時の代執行や代執行費用の徴収に於ける円滑化が図られた。

緊急時の代執行制度[改正法22条11項]

現行法では特定空家等に対して代執行する際は、指導・勧告・命令を行った上で、一定の手続きを経る必要があり、迅速な対応が困難であった。しかし、例えば台風により今にも倒壊しそうな特定空家等は、周辺住民に危険を与える恐れがある場合には迅速に対処する必要がある。

そこで改正法では、緊急時の代執行制度が創設された。災害その他非常の場合に於いて、保安上著しく危険な状態にある特定空家等に対して命令などの一部の手続きを経ずに代執行が可能となり、迅速な安全確保が可能となった。

代執行費用の徴収の円滑化[改正法22条12項]

通常の代執行の場合には、行政代執行法の定めにより、所有者へ代執行費用の強制的な徴収が可能である。他方、略式代執行(所有者不明時の代執行)の場合は、代執行後に所有者が判明した時に通常の代執行のように直ちに所有者へ費用徴収ができなく、裁判所の確定判決を得る必要がある。

そこで改正法では、略式代執行時や緊急代執行時に於いても、行政代執行法の費用徴収規定を準用することにより、裁判所の確定判決を得る必要がなくなり、強制的な費用徴収が可能になった。

まず予備知識として、民法には次の財産管理制度がある。

不在者財産管理制度[民法25条]

不在者がその財産の管理人を置かなかった場合に、利害関係人の請求により家庭裁判所がその財産の管理について必要な処分を命ずることができる制度である。

相続財産清算制度[民法952条]

所有者が死亡して相続人がいることが明らかでない場合に、利害関係人の請求により家庭裁判所が相続財産清算人(「相続財産管理人」とも言う。)を選任する制度である。

所有者不明土地建物管理制度及び管理不全土地建物管理制度(2023年4月1日から施行)

所有者不明の土地建物及び管理不全の土地建物について、利害関係人の請求により地方裁判者が管理人を専任する制度である。

しかし、上記の財産管理制度では、民法上は裁判所への請求権者が利害関係人に限定されているため、利害関係人に当たることを証明できなければ、市町村は請求できない。

そこで改正法では、市町村が主導して空家等の適切な管理や処分を進めることができるように、上記民法の財産管理制度に於いて、市町村長が裁判所に対して管理人の選任を請求できることとなった。これにより、市町村が財産管理制度を活用して所有者不明不在の空家等の管理や処分を実施できるようになる。

なお、この対象は管理不全空家等及び特定空家等である。

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