保証の民法規定
本章では、不動産賃貸借に限定することなく、保証に絡む当事者の関係を明確にした上で、保証に関する民法規定を解説する。
保証に絡む当事者の関係
保証に絡む当事者として、債権者、債務者及び保証人の三者が登場するので、これら三者と締結する契約との関係を下図に示す。
保証契約について補足すると次のとおり。
- 民法の原則は口頭でも契約は成立するが、保証契約は書面(あるいは電磁的記録)で行う必要があり、口頭の保証契約は無効となる[民法446条2項,3項]。
- 保証契約を締結する上で、保証委託契約を締結している必要がない。ごく稀なケースだが、保証人は債務者からの委託を受けずに、勝手に債権者との間で保証契約を締結しても有効である。
なお、当然であるが保証人には求償権がある[民法459条]。つまり、債務者の委託を受けて保証人になった場合に、保証人は債務者に代わって弁済した金額を債務者に請求できる。ただ、債務者からの委託を受けずに保証人になった場合は、求償権に制限が付く[民法462条]。
保証債務の範囲
保証債務の範囲は次のとおり。
-
保証人の債務の範囲は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他の債務に従たるもの全てを含む[民法447条1項]。
保証人は債務者の全債務を保証することが原則となる。保証人は、例えば次の費用も債務者の債務であることから保証の対象となる。
- 債務者が借りたお金の元本だけでなく、利息も対象。
- 債権者が訴訟を起こし債務者が敗訴した場合、勝訴した債権者の訴訟費用も対象。
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保証人は、その保証債務についてのみ、違約金又は損害賠償の額を約定することができる[民法447条2項]。
保証債務は、主たある債務とは別個の債務なので、保証債務の履行を確実にするために、保証債務に予め違約金や損害賠償として固定額を定めることができる。
なお、このことは状況により「内容の附従性」に反することが発生すると思うかもしれないが、保証債務の内容自体を定めている訳でないので、附従性とは別の話であり反してることにはならない。
連帯保証人vs.単なる保証人(抗弁権と利益)
保証人は、債務者と連帯して債務を負担する必要があるか否かで2つに分かれる。連帯して負担する必要のある保証人を「連帯保証人」と言い、連帯保証人と区別するために連帯して負担する必要ない保証人を本解説では便宜上「単なる保証人」と表現することにする。また同様に、連帯保証人として締結する契約を「連帯保証契約」と言い、同様に単なる保証人として締結する契約を便宜上「単なる保証契約」と表現することにする。
原則で言えば、保証債務の性質の1つに「補充性」がある。つまり先述(民法446条1項)したとおり、保証人は債務者が債務不履行に陥って初めて不履行債務を補充する必要がでてくる。この性質により、単なる保証人は原則どおり債権者に対し次の2つの抗弁権を持つが、連帯保証人は原則から外れ持たない[民法454条]。なお、具体例はコチラを参照されたし。
- 催告の抗弁権[民法452条]
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債権者が保証人に対し、債務者の債務を履行するように請求してきた場合に、「まずは債務者に請求(「催告」)して」と主張できる。債権者がそれを行わない間、保証人は保証債務の履行を拒否できる。
- 検索の抗弁権[民法453条]
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債権者が債務者に債務を催告した後に債権者が保証人に請求してきた場合でも、保証人は債務者の財産を調べ上げ(「検索」して)、財産が有りかつ執行が容易であることを証明すれば、債権者は法的手続きである強制執行により債権を回収する必要がある。債権者がそれを行わない間、保証人は保証債務の履行を拒否できる。
この財産の証明は、若干の財産で良く、債権全額に及ぶ必要がない[判例]。
更に、連帯保証人は単なる保証人が持つ、次の利益も持たない[判例]。なお、具体例は、コチラを参照されたし。
- 分別の利益[民法456条により427条を適用]
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保証人が複数いる場合、各保証人が負う債務は、全債務を保証人の数で均等割した分となる。
従って、分別の利益を持たない連帯保証人の場合は、各連帯保証人が負う債務は、全債務となる。
以上を整理すると下表のとおり。
権利名 | 単なる保証人 | 連帯保証人 |
---|---|---|
催告の抗弁権 | 有 | 無 |
検索の抗弁権 | 有 | 無 |
分別の利益 | 有 | 無 |
根保証契約vs.通常の保証契約(極度額)
保証契約には、保証契約締結後の将来に発生する不特定多数の債務まで保証しなければならない契約と保証契約時に特定した債務のみを保証する契約がある。前者を「根保証契約」と言い、「根保証契約」と区別するために後者を本解説では便宜上「通常の保証契約」と表現することにする。
原則で言えば、保証債務の性質の1つに「附従性」がある。主たる債務が成立しなければ保証債務は成立せず(成立に於ける附従性)、主たる債務が消滅すれば保証債務も消滅する(消滅に於ける附従性)。この性質により、通常の保証契約は原則どおり保証契約時に特定した主たる債務そのものがなくなれば自動的に保証債務もなくなり、1回限りの保証契約となる。
これに対し、根保証契約は原則から外れ将来発生する債務まで保証しなければならなく、例として次のような利用にメリットがある。
事業主(債務者)が銀行(債権者)から継続的に事業資金を借り入れる場合に銀行と保証人との間で根保証契約を締結した場合、銀行からすれば将来貸す分も保証されるメリットがあり、債務者からすれば返済する度に保証債務は消滅しないので、その都度保証人を見つけなくて済むメリットがある。ただ保証人からすれば、将来の保証債務の額が確定していない状態で保証することになり、通常の保証契約に比べリスクが大きい。
そこで改正民法により、個人が保証人になる根保証契約(以下、「個人根保証契約」と言う。)の場合、保証人が保証する債務額の上限となる「極度額」を定めなければ保証契約が無効になり、保証人に対し支払いを求めることができなくなった※2[民法465条の2の1項と2項]。
この限度額は書面(あるいは電磁的記録)で[民法465条の2の3項]、当事者(債権者と保証人)間の合意で定める必要がある。また極度額の記載方法は「○○円」などと明瞭に表す必要がある。
なお、この根保証は、単なる保証契約、連帯保証契約のどちらでも付けることができる。
元本確定事由[民法465条の4(強行規定)]
これまで個人根保証契約の場合、貸金等根保証契約以外は元本確定事由が規定されていなかった。しかし保証人保護の観点から、民法改正により貸金等以外の個人根保証契約でも元本確定事由が規定され、個人根保証契約の元本確定事由が次のとおりになった。
連帯保証人に対する履行請求の効力
これまでは、債権者は連帯保証人に対し履行を請求すれば、債務者に対しても効力があり、債務者に対し債権の消滅時効※4の進行は止まった。しかし改正民法では、債務者の知らないところで債務の消滅時効の進行が止められるのは債務者に不測の被害を与えるとして、連帯保証人に対する請求の効力は債務者に及ばなくなった[民法458条]。従って、そのまま消滅時効の進行が止まらず債務者の主たる債務が消滅してしまうと、附従性により保証人の保証債務も消滅する。
債権者の立場に立てば、保証契約に次のような特約を付けて、債務者に効力が及ぶようにしておくべきである。
「債権者の連帯保証人に対する履行の請求は、債務者に対してもその効力が生じるものとする。」
情報提供義務
保証人にとって、債務者の経済状況や債務履行状況を知ることが重要であることから、次の情報提供義務が改正民法で創設された。
保証契約締結時[民法465条の10]
債務者は、事業のために負担する債務を保証を委託する時は、委託された方が保証人になるかどうかの判断情報として、次の情報を提供しなければならない。
- 財産及び収支の状況
- 主たる債務以外に負担している債務の有無、並びにその額及び履行状況
- 主たる債務の担保として他に提供し又は提供しようとするものがある時は、その旨及びその内容
また、債務者が事実と異なる情報提供をしたために保証人が誤認して保証契約を締結した場合は、債権者の利益も考慮しなければならないので、無条件に取消すことができる訳ではない。取消すことができるのは、債権者が事実と異なる情報提供であったことを知っていたか、知ることができたときである。
なお、この情報提供義務と保証契約取消しは、保証人が法人の場合は適用されなく、個人に限られる。
債務履行状況[民法458条の2]
債務者の委託を受けて保証人(保証人が個人か法人かを問わない。)になった場合は、保証人は債権者に対し主たる債務についての支払い状況に関する情報提供を求めることができ、債権者は遅滞なく提供しなければならない(債務者の同意不要[個人情報保護法23条1項1号])。
期限の利益の喪失[民法458条の3]
債務者が期限の利益を喪失すると、遅延損害金の額が大きく増加するので、早期に支払わないと保証人に多額の支払いを請求される可能性がある。そのため,保証人が個人である場合には,債権者は保証人に対し、債務者が期限の利益を喪失したことを知った時から2ヶ月以内にその旨を通知しなければならない。
債権者が2ヶ月以内に通知しなかった場合は、債権者は保証人に対し、期限の利益を喪失した時から通知までの遅延損害金を請求できなくなる。
内容(目的・態様)に於ける附従性
保証債務の性質の1つとして、附従性があることは先述(成立に於ける附従性と消滅に於ける附従性)したが、附従性にはその他「内容(目的・態様)に於ける附従性」がある。
保証人の負担が、債務の内容に於いて主たる債務より重い時は主たる債務の限度に縮減される[民法448条1項]。これにより、主債務の内容が保証契約の締結後に縮減されると保証債務も縮減されると判断できる。
逆に、主たる債務の内容が保証契約の締結後に加重されても、保証人の負担は加重されない[民法448条2項]、当然のようなことが改正民法で明文化された。
契約締結時期と新旧民法の適用
改正民法の適用には経過措置がある。改正民法の施行は2020年4月1日なので、その日より前に締結された契約は従来の規定が適用され、その契約期間が2020年4月1にまたがり2020年4月1日以降になっても改正民法が適用されない。
不動産賃貸借に於ける保証契約
本章では、不動産賃貸借に限定することにより定まる保証契約の種類等に於いて、保証に絡む当事者の関係を示した上で、影響を受ける民法規定について解説する。
定まる保証契約の種類等
不動産賃貸借に当てはめると、おのずと次のことが定まる。
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不動産の賃貸借契約は双務契約である。つまり、両当事者は債務の内容により債権者になったり、債務者になったりする。賃貸物件を使用収益させる義務を負っている債務者は貸主であり、賃料を支払う義務を負っている債務者は借主である。
ただ、保証人を付けることを要求される債務者は、賃料等を支払う義務を負う借主である。よって、保証契約の本解説では、債務者は借主を、債権者は貸主を意味する。
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不動産賃貸借に於いて、借主の保証人は将来(入居後)の賃料不払い等に対して保証しなければならないので根保証であり、また必ず貸主(又は仲介業者)から借主と連帯して保証することが要求される。つまり、不動産賃貸借に於ける保証契約とは、一意的に「根保証の連帯保証契約」を指す。
保証に絡む当事者の関係
保証に絡む当事者として、貸主、借主者及び保証人の三者が登場するので、これら三者と締結する契約との関係を下図に示す。
賃貸借契約の実務上の一般的な流れは、次のとおり。
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賃貸借契約締結に当たって、仲介業者から「連帯保証人を付けてください。」と言われたら、
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賃貸借締結前に保証人になってくれそうな身内や知人を探し、その方から保証人の承諾を取っておく必要がある。この時の口頭の承諾が借主と保証人との間での「保証委託契約」の締結になる。
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その後に賃貸借契約の締結となるが、賃賃貸借契約書内に連帯保証人の記名・捺印欄があり、保証人に記名・捺印をしてもらうことになる。これにより貸主と保証人との間での「保証契約※5」の締結もしていることになる。
保証債務の範囲
保証人の債務の範囲は、滞納賃料だけでな賃貸物件損傷の原状回復や損害賠償も対象となる。。
但し、明渡しに関しては、明渡しそのものの債務のような一身専属的な債務は、保証債務の対象外であり、保証人(連帯保証人を含む)が代わりに履行できない。なお、不動産賃貸借契約の解除による明渡し遅延期間の賃料相当額の遅延賠償は対象である[判例]。
抗弁権と利益
不動産賃貸借の保証人は連帯保証人であるために、「催告の抗弁権」、「検索の抗弁権」及び「分別の利益」が無く、具体例を挙げると次のとおり。
- 催告の抗弁権
- 貸主が連帯保証人に対し「借主が今月分賃料を振込んでいないから支払って」と請求してきた場合に、単なる保証人のように貸主に対し「まずは滞納している借主に、先に請求して」と突っ撥ねることができなく、貸主の請求に応じなければならない。
- 検索の抗弁権
- 貸主が連帯保証人に対し「借主が100万円滞納しており、借主に支払ってと請求しても支払わないので、おたくが支払って」と請求してきた場合に、単なる保証人のように貸主に対し「借主が家を借りているのは転勤になったからであり、転勤前は持家に住んでおり、今も奥さんと子供は持家に住んでいる。しかも、その持家は昔相続で取得しており抵当権も付いていない。だから借主に請求しても支払わないのであれば、私(保証人)に請求する前に、まずは借主の持家を法的手続きの競売に掛け回収して」と突っ撥ねることができなく、貸主の請求に応じなければならない(連帯保証人が応じなければ、連帯保証人の財産が強制執行される恐れあり)。
- 分別の利益
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保証人が二人いて賃料滞納額が100万円だったとすると、保証人が単なる保証人の場合と連帯保証人の場合で次の違いが発生する。
- 単なる保証人(分別の利益有り)
- 貸主は、各保証人対し50万円(100万円÷2人)までしか請求できなく、各保証人は50万円を保証する義務を負う。
- 連帯保証人(分別の利益無し)
- 貸主は、各保証人対し100万円(全額)まで請求でき、各保証人は100万円を保証する義務を負う※6。
元本確定事由
不動産賃貸借の保証契約は根保証契約であるため、保証人が個人の場合であれば改正民法により貸金等根保証契約以外となる不動産賃貸借であっても、元本確定事由が規定されることになった(確定事由内容は、コチラを参照)。
従って、借主が自殺すればその時点で元本が確定するため、賃料不払い分に対する連帯保証人への請求は、自殺前の不払い分だと可能であるが、自殺後の不払い分だと不可能となる。(但し、相続人に請求可能)。なお、自殺に伴う賃貸物件損傷の原状回復や損害賠償については、これらの請求権が自殺と同時に起きていることから、保証人に請求できる可能性が高い。
連帯保証人に対する履行請求の効力
不動産賃貸借の保証人は連帯保証人であるため、改正民法により連帯保証人に対する請求の効力は債務者に及ばなくなった。従って、債務者の債権の消滅時効に注意を払う必要がある。あるいは、賃貸借契約書に「借主(債務者)に対してもその効力が及ぶ」特約を付けるべきである。
情報提供義務
改正民法により情報提供義務が創設され、不動産賃貸借で適用される要件は次のとおり。
- 保証契約締結時の情報提供義務の適用要件は、賃貸物件が事業用でかつ保証人が個人の場合。
- 債務履行時状況に関する情報提供義務の場合は適用要件がない。よって、居住用か事業用かを問わなく、また保証人が個人か法人かを問わない。
内容(目的・態様)に於ける附従性
改正民法(民法448条2項)により、賃貸借契約締結後(保証契約締結後)、賃料が増額された場合、保証人は増額分の責任を負う必要がなくなる可能性がある。貸主の対応策として、予め保証契約書に「増額分も保証人は責任を負う必要がある」旨の特約を付けておく方法が考えられるが、民法448条2項が強行規定と判断され特約が無効になる可能性もある。
極度額
以下に、極度額の記載の注意点、及び所見として妥当な設定額について述べる。
記載の注意点
不動産賃貸借の保証契約は根保証契約であるため、保証人が個人の場合は改正民法により、保証契約に極度額を明瞭に記載しなければ保証契約が無効になる。
「〇〇円」と具体的な金額だけを記載すれば記載形式に問題がないが、「月額賃料の□□ヶ月分」とか「月額賃料〇〇円の□□ヶ月分」のような記載は月額賃料が将来変更される可能性もあり、金額を明瞭に示していないので避けるべきである。
妥当な設定額
極度額の設定額は、公序良俗に反するような極めて高額を設定しない限り、当事者(貸主、連帯保証人等)間の合意で決定すれば良い。そうは言っても何らかの基準がないと決定し難いこともあり、国交省は参考資料として、家賃債務保証業者が回収できなかった損害額、賃貸住宅管理会社が回収できなかった損害額、及び裁判所の判決により確定した連帯保証人の負担額を調査した資料を公開していて、コチラから参照できる。この資料によると、裁判所の判決による民間住宅に於ける連帯保証人の負担額の平均は、月額賃料の13.2ヶ月分(中央値は12ケ月分、最大は33ヶ月分)であった。
上記を踏まえ、現時点に於いて私が考える妥当な設定額については次のとおりである。
極度額の設定額は、今のところ12ヶ月から24ヶ月分(賃貸借契約期間の2年分相当)が多いと聞くが、地元では私の感覚として12ヶ月分程度のように思われる。
賃貸物件の私の経験に於いては、賃料絡み以外で通常訴訟の控訴までしたことがあるがこれは極稀な特殊なケースであり、賃料絡みに限定すればトラブルにより当事者間で解決できなくなれば、少額訴訟(60万円以内の金銭の請求で可能)で解決し、通常訴訟まで発展したことはない。これを踏まえれば、12ヶ月分程度で十分との見方できる。
しかし、上記国交省の参考資料によると、裁判まで発展した場合に於ける連帯保証人負担額の中央値は、12ヶ月である。つまり、裁判になる事態が発生する場合は50%の確率で12ヶ月分を超えてしまうと判断でき、しかも裁判に於ける弁護士費用は、保証人には請求できない。そうなると貸主の立場に立てば、極度額12ヶ月分は決して安心できる金額でない。その一方で、極度額が高額になればなるほど、借主が連帯保証人を見つけ難くなる状況もある。
以上により、不動産は地域特性があるので私の地元で、かつ火災保険(借家人賠償責任担保特約)の加入を前提として述べると、極度額の設定金額は12ヶ月分を最低ラインにして、借主・連帯保証人の状況等を踏まえながら、可能であれば上乗せ額を検討すれば良いと考える。
なお、家賃保証会社を利用する手もある。家賃保証会社は法人なので極度額の設定が不要であり、また滞納賃料の立替え及び回収を行ってくれるので、貸主からすれば連帯保証人を付けてもらうより安心である。実務に於いても、仲介業者は借主に連帯保証人を付けてもらうことを避け家賃保証会社を利用させる傾向が強くなっている。
契約の更新による新旧民法の適用
改正民法の施行は2020年4月1日なので、その日以降に締結された契約に適用され、その日より前に締結された契約は従来の規定が適用されれる。
注意しなければならないのは、従来の規定が適用されている契約を改正民法施行後に更新する場合である。この時、新旧のどちらの民法を適用されるかの判断基準は、当事者の意思で更新されたと判断できるか否かである。当事者の意思で更新されたと判断できるならば、更新後の契約は改正民法が適用されることになる。
賃貸借契約の場合
不動産の賃貸借契約の更新は次の4種類に分類でき、新旧民法の適用は次のとおりとなる。
- 合意更新
- 合意更新とは、契約期間満了前に、当事者(貸主と借主)の合意により更新すること。つまり、明らかに当事者の意思で更新しているので、新法が適用される。なお、通常不動産業者が当事者の間に入って賃貸借契約の更新手続きを行っているが、これは合意更新をしていることになる。
- 自動更新
-
自動更新とは、契約書に「期間満了前に当事者のどちらかから更新に対し異議を述べなければ、(自動的に)更新される。」旨が明記されており、それに従って更新されること。これは、当事者の意思で契約を終了させなかったと判断され、新法が適用される。
- 法定更新[借地借家法26条]
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建物の賃貸借契約で、かつ契約書に自動更新の条項がない場合に於いて、当事者のどちらかから期間満了の一定期間前に、更新しない旨の通知等をしないことで、借地借家法に則り更新されること。これは、当事者の意思とは関係なく法律に則り強制的に更新されるので、旧法が適用される。
- 更新の推定[民法619条1項]
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借地借家法の適用を受けない賃貸借契約に於いて、満期を迎えた後も借主が継続使用しているにも関わらず、貸主は借主の使用継続を知りながら異議を述べなければ、更新したと推定されること。これは、異議を述べないことで当事者が合意更新したと推定しており、当事者の意思で更新していることになり新法が適用される。
保証契約の場合
賃貸借契約が更新された時に、保証契約に関し当事者(貸主と連帯保証人)で新たな合意があるか否かで新旧民法適用が決まり、次のとおりとなる。なお、保証契約には賃貸借契約のような法定更新の制度はない。
- 合意有り
- 賃貸借契約の更新時に、保証契約も合意で更新(又は新規に締結)された場合は、当事者の意思で行われているので、新法が適用される。よって、最初の保証契約には極度額を定めなくても保証は有効であったが、更新(又は新規)の保証契約には極度額の定めないと保証は無効になるので注意されたし。
- 手続き無し
-
賃貸借契約の更新時に、保証契約について特段の手続きを取らなかった場合でも、賃貸借契約の更新されれば保証契約は継続される[判例]。この時、賃貸借契約更新後も保証契約は旧法が適用されるので、賃貸借契約更新のタイミングで極度額を定める必要もない。ちなみに、この時の賃貸借契約が合意更新であれば、更新後の賃貸借契約は新法が、保証契約は旧法が適用されることになる。
明確でない保証契約更新の有無
上記のことを理解していれば、新旧の切り分けが容易にできるように思うかもしれないが、実務では明確な切り分けができないこともある。と言うのも、「※5」でも述べた私の長年のスッキリしない理解が、新旧の適用に関わってくるからである。つまり、賃貸借契約更新時に連帯保証人が賃貸借契約に署名・捺印した場合に於いて、保証契約を兼ね問題なく締結に至っているとするならば保証契約を合意で更新(又は新規に締結)したことになり新法が適用されるが、問題のない締結に至っていないとするならば保証契約を合意で更新(又は新規に締結)していなことになり旧法が適用されることになる。怖いのは、締結に至っていないと思い極度額を設定しなかった場合に、締結に至っているのが正解と判断されてしまうと、賃貸借契約更新後は保証が無効になってしまうことである。どちらが正解かは、判例等がないのか、どうも明確になっていないようである。
また、更新時に連帯保証人の署名・捺印を貰うが、極度額の制限を受けないようにする対策として、賃貸借契約の特約に「署名・捺印を貰ったのは、これまでの旧法の適用を受けている保証契約の内容を確認するもので、新規の保証契約を締結したものでない。」旨を明記することもあるようである。ただ、この方法も連帯保証人に署名・捺印を貰っている以上、新たな保証契約の締結に至ったと解釈され、特約が無効となり、極度額を設定していなことから保証契約が無効になるリスクがある。
そうなると、賃貸借契約更新時に連帯保証人の署名・捺印を貰うのであれば、リスク回避の観点から、保証契約の旧法適用を諦め、賃貸借契約書及び保証人引受承諾書の両書類に署名・捺印を貰い、極度額を定めることが、貸主に取って理想の状態にならなくても最も安全な状態と考える。
新旧民法適用のまとめ
以上、賃貸借契約更新後の新旧適用について、私の考えをまとめると次のとおり。